【都市探訪】栃木県宇都宮市(その1) 〜都市の公共交通〜

前橋から宇都宮へ向かいます。JR両毛線宇都宮線を乗り継ぎ、2時間とすこし。
どうやらその日は小山くんだりで花火大会があった様子で、
車両内は祭りの華やいだ雰囲気で満たされていました。そして子どもは窓をじっと見つめる。外真っ暗なのに。



宇都宮市です。
宇都宮といえばギョーザ、ギョーザといえば宇都宮。
そんな形容がなされるぐらい名高い宇都宮のギョーザですが、
そもそもは宇都宮市近郊がニラの名産地であり、良質の豚が生産されることから、両者が結びつけられたのだといわれています。
こんな農業都市としての一面と、北関東最大・50万都市としての一面。
宇都宮は現在も私たちに、そのたくさんの顔をみせてくれています。



※ウィキペディア様のデータはこちら
参考文献:『地域再生の罠』(ちくま新書)久繁哲之介著



宇都宮駅に降り立ち、まずは駅前のレンタサイクルの駐輪場を訪れます。
市街地側の西口にあった駐輪場では既にレンタサイクルの空きがなく「NO」。
「東口ならやってるかもしれない」とおじさんに言われやむなく東口の駐輪場に向うも、そこでも「NO」。
諦めて徒歩で散策することにします。
宇都宮駅東口はオフィスビル、飲食店、ホテルなどは点在していますが、広大な空き地があり、
典型的な駅前再開発候補地の機運がたちこめています。
そんなことを考えていると、目に入ってきたのがこんな看板。






宇都宮市は現在、LRT(Light Rail Transit)の導入を計画しているようです。
早い話が、次世代型の路面電車のようなものでしょう。
LRTといえば富山市の取り組みが有名で、まちづくりの有力政策として、現在様々な自治体で導入が検討されていると耳にします。



一昔前まで、路面電車はあらゆる大都市・地方都市で走っており、市民の日常の足として活躍していました。
現在も松山市鹿児島市高知市といった地方都市では、新旧ないまぜの路面電車を目にすることができます。
しかし日本では高度成長期に、多くの都市は路面電車を廃止しました。背景として挙げられるのは、
自家用車の隆盛と郊外化(居住域の拡大)に伴う乗客の減少と路面電車運用コスト増。
その後、上記の現象がもたらす別の作用が指摘されはじめます。
郊外に進出したショッピングセンターは中心市街地の空洞化を加速化させ、
郊外住宅地の拡散は自治体のインフラコストの増大につながり、自治体予算を圧迫しているというのです。
(特に富山などの雪深い地域において、除雪作業の範囲が拡がることでかかる負担は膨大です。)



コンパクトシティ」という現在の駅前再開発、中心市街地活性化の根拠となる概念は
このような副作用へ対応するために、現在多くの自治体によって掲げられています。
LRTもその理念を実現するための政策として導入が検討されていると文脈を理解することができるでしょう。
具体的な効果としてLRTは、お年寄りなど交通弱者への対応(公共交通の廃止インパクトは交通弱者に集中する)、
中心市街地活性化(郊外から中心市街地へ導線を引く)、環境負荷の軽減(自家用車使用の抑制)が
期待されているようです。



こうしたトレンドであるコンパクトシティの概念を「郊外切り捨て」「中心市街地の利権への配慮」
「新たなハコモノ建設の口実」と批判する論者もいらっしゃいます。
ただし、歴史をひもとき、(田中角栄の『日本列島改造』や中曽根康弘の『アーバンルネッサンス』などを例にだしつつ)
「地方都市が関わる行政にとって、あらゆる概念や理念は所詮利権の隠れ蓑であり、
開発の欲望をかなえる打ち出の小槌にすぎない」とシニカルに再批判するのは不可能ではないでしょう。



このような態度は都市政策を議論するうえで一見まったく建設的でないようですが、
すすみゆく現実についての「善悪のジャッジ」をあえて留保し、
今まさに不条理な負担を強いられている市民へ必要なアプローチを議論することにつなげることができれば、
戦略的にとってみてもいいのかもしれません。特にさしせまった危機を抱える社会的弱者が存在する場合においては。
政策のメリット・デメリットを冷静に見積もり、早いスパンで実行に移していく必要があるのであれば。



この立場にたてば、LRTの駅も通らない郊外の、高齢化が進む集合住宅の住民に対する交通手段の提供はどうするか、
LRTに中心市街地・郊外双方の住民がよりメリットを見いだし、使ってもらうようにするには何をすればいいのか、
LRT導入に際し、自家用車の誘導政策をどのように考えるか、といった現実的でかつ即効性のある議論を
矢継ぎ早にすすめることができるでしょう。
※そんな議論はここでやっています。



話がいつのまにか公共交通から大きく逸れてしまいました。
しかし都市を生きる我々にとって、公共交通政策をどう捉えるか、その効果をどう見積もり実践するかは、
コミュニティの価値にまつわる議論と無関係でないどころか、密接に結びついています。
おそらく、どちらを先にするのかというだけの違いでしょう。



実を言うとここ東口では某有名店でギョーザをたらふく食べただけなのです。
次回は西口を散策し、コミュニティの価値について考えます。