遠くには行けない
キングクリムゾン/King Crimsonというバンドがありました。
今もあるのかな?
人生で最初に影響を受けたアーティストのひとつです。まだ、塩ビ盤のレコードの時代に、1日中聴いていました。
長い間制作活動をしていると、様々なアーティストと出会い、影響を受け、自分の仕事も変わっていきます。そして、若かりし頃、好きだったものを、軽蔑したり、そこから離れたりするものなのですが、不思議なもので、最近は、最初の一歩だった頃の事をよく考えるようになりました。
画家を志したのは、ピカソを見てからなのですが、それよりもさらに前、まだ、小学生の頃に、このバンドを知りました。
両親は兄にだけはひどく教育熱心でした。幸か不幸か、僕の教育にはあまり関心がなかったように思いますが。あの時代は惣領(そうりょう)という意識がまだ強かったからかも知れません。兄は未だに、僕が好き勝手に生きて来たことをやや恨んでいるフシがあります。
その兄が、中学1年の夏をロンドンでホームステイをして過ごしたのですが、どういうものか、英語はさっぱり上達しなかった代わりに、ロックミュージックのレコードを大事に抱えて帰って来ました。
強烈なインパクトでした。どの世代でも、若い頃に出会う新しい表現には、鮮烈な印象を持つものなのでしょうが、、それでも自分だけだと言張りたいほど衝撃的でした。
Led Zeppelin、David Bowie、
Deep Purple、T.Rex、Pink Floyd、
聴いたことがない世界。異様で、病的で、暴力的で、アナーキーで、、めちゃくちゃカッコ良かった。
浦沢直樹氏の「二十世紀少年」の主人公が、学校の給食の時間に、T.Rexをかけるシーンがあります。
学校の放送部が流す、甘い、毒にも薬にもならない平穏無事な音楽。そんな日常の何かを壊そうと、意気込んで放送室に乗り込み、20th Century Boyをかけるシーンは、あの世代の音楽シーンの衝撃を知っている者の共通の想いでした。
事実僕は、あのシーンとまったく同じことをしました。流した曲は、Metal Guruでしたが、、。
レコードの針を落とす時、これで世界が変わると、、幼心に本気で思ったものでした。
そして、何も変わらない、、。同世代でも、あの衝撃を共有できない人達が、ほとんどである事を思い知らされる、、。すべてが、、漫画のストーリーとまったく同じでした。
思えばこの時、僕は、幼いながらに芸術家として知っていなければならない基本になる二つの事を学んだわけです。
ひとつは、表現に関わる資質を持つ者とそれ以外の者がいるということ。
世間の大半は、そんなモンに興味はないということ。
なんとなく、モノを表現する人間になりたいという、ぼんやりとしたイメージを、この頃から持ち始めたように思います。音楽を聴いていながら、ミュージシャンをイメージしたことが一度も記憶にないのは、幼いなりに多少は自分を知っていたのかも知れません、、。
In the Court of the Crimson King クリムゾンキングの宮殿
Lark's Tongues in Aspic 太陽と戦慄
Starless & Bible Black スターレス&バイブルブラック
傑作が沢山ある中で、僕は、なぜかあまり評価されないIslandsと言うアルバムが好きでした。
そのタイトルチューンの秀逸な動画をyoutubeで見つけて、毎日のように観ています。
若い頃に捨て去ったはずの、シュールレアリスムやロマン派、世紀末絵画が、同じく、少年時代のBGMだった曲に乗せて、甦ります。
人は、自分が思う程、遠くには行けないものなのだな、と思う今日この頃です。