覚え書:「今週の本棚:伊東光晴・評 『和製英語事典』=亀田尚己、青柳由紀江、J・M・クリスチャンセン著」、『毎日新聞』2014年04月06日(日)付。


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今週の本棚:伊東光晴・評 『和製英語事典』=亀田尚己、青柳由紀江、J・M・クリスチャンセン著
毎日新聞 2014年04月06日 東京朝刊

 (丸善出版・4104円)

 ◇にわかに信じがたい“不思議な英語”の成り立ち

 英語と思いきや、日本人が作った和製英語で通用しない。場合によっては、とんだ誤解を招きかねない。そうしたものが、次から次へとでてきて、飽きることがない。

 とんでもないのが、誰もが食べる「シュークリーム」だろう。イギリス人ならシューは靴であり「靴クリーム」ということになる。お菓子屋さんで口にしてはならない。正しくはフランス語では「シュー・ア・ラ・クレーム」、英語では「クリーム・パフ」と言わねばならない。スポーツ用語などは共通だろうと思いきや、「バックホーム」は命令形で「家に帰れ」、「(ここから)出ていけ」という意味らしい。

 へえと思ったのは、日本での食事の形式「バイキング」である。北欧の海賊たちがこんな風に食事をしていたのかと思っていたが、発明者は帝国ホテルの支配人で、デンマークで目にしたスモーガスボード(スカンジナビア風前菜料理)をヒントに開発したのだという。なぜバイキングというかというと、たまたま隣の日比谷映画劇場で「バイキング」という映画が上映されており、映画の中で豪快な食事シーンがあったので「バイキング」と名づけたのだという。

 にわかには信じられないので調べてみたら、昭和33(1958)年帝国ホテルではじめたのがおこりだとわかった。海外で通じるはずがない。

 では英語で何というか。何のことはない。「スモーガスボードスタイル」であり、簡単な立食ならビュッフェスタイルでよい。これなら日本でも通じる。

 このように、人為的に作られた和製英語には「ハローワーク」がある。もちろん公共職業安定所の愛称であるが、1990年、労働省が公募し、採用された完全な和製英語で“こんにちは、お仕事”では何のことかわからない。イギリスでは、Public Employment Security Officeであり、アメリカではDepartment of Human Resources Officesである。

 和製英語には「後部省略型」と「後部省略型2語形成タイプ」が多いというのが著者の指摘である。

 前者にインフレ、インフラなどがある。インフレーション、インフラストラクチャー(社会基盤)の前半部分で、二つの言葉の前だけをつなげるのはエアコン(エア・コンディショナー)、セクハラ(セクシャル・ハラスメント)など多い。もちろんこれらはすべてを終わりまで言わなければ通じない。

 なぜ日本でこのような省略型の和製英語が多いのか。「短大」「携帯」とか「デパ地下」とか若者はめんどうだから省略語を使うのだろう。新聞の見出しも短くしなければ入らないし、インパクトがあるようにさかんに省略語を使う。海外での簡略語はPublic Employment Security OfficeをP・E・S・Oと表記する。同じ略語で違う内容のものがあり、日本人にはわかりにくい。

 明治期に外国人がそう言っていたので、誤って根づいたのがトランプであり、ジョン万次郎が買い求めてきたミシンなどもある。トランプは切り札の一枚のことで、全体はカードである。

 外国語と思われがちで純然たる日本語には、コンロ(焜炉(こんろ))やチャック(巾着からきた)などがあるという。

 この本はとても面白い。この延長線上で、外国語になった日本語や日本のものの表記も集めてほしい。日本式風呂はバンブウ・バス、NHKによればニューヨークで「ベントウ」が大はやりだという。 
       −−「今週の本棚:伊東光晴・評 『和製英語事典』=亀田尚己、青柳由紀江、J・M・クリスチャンセン著」、『毎日新聞』2014年04月06日(日)付。

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http://mainichi.jp/shimen/news/20140406ddm015070009000c.html





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