覚え書:「書評:花と樹木と日本人 有岡利幸 著」、『東京新聞』2016年10月30日(日)付。

Resize3861

        • -

花と樹木と日本人 有岡利幸 著

2016年10月30日
 
◆梅は香りを尊ぶ文化
[評者]高橋千劔破(ちはや)=文芸評論家
 日本は四季折々の自然に恵まれた山国で、山々の多くは樹木に覆われている。そして雨の多い国土に生育する樹木は、再生率がきわめて高い。樹木の恩恵なくして、日本の文化は成立しなかった。
 本書は多数の樹木の中から花木と建材の計八種を選び、その樹木と日本人がどのように関わり、それらが文学や文化の中でどう表現されてきたかを述べる。
 全九章のうち、第一章は梅を取り上げる。梅は三世紀の『魏志倭人伝』に早くもその名が見え、『万葉集』には梅を詠んだ歌が一二七首もあるという。さらに『古今和歌集』には二八首が収められているが、その多くは、梅を花木として愛(め)でるのではなく、その香りを愛したものという。たとえば、凡河内躬恒(おおしこうちのみつね)の「月夜にはそれとも見えず梅の花香をたづねてぞ知るべかりける」や、紀貫之の「人はいさ心も知らずふるさとは花ぞ昔の香ににほひける」などがよく知られている。
 また『源氏物語』には「梅の香も御簾(みす)の内の匂ひに吹き紛ひて…」云々(うんぬん)と出てくる。『枕草子』には「濃きも薄きも、紅梅」と、その美しさを称(たた)えた描写があり、菅原道真の「東風(こち)ふかばにほひおこせよ梅の花あるじなしとて春をわするな」にまつわるエピソードも紹介される。
 さて、第二章以下はどんな樹木が紹介されているのか。関心を持たれた方は、ぜひ本書をお読みいただきたい。
 (八坂書房・2916円)
<ありおか・としゆき> 1937年生まれ。植物研究者。著書『桜』『梅』『欅』など。
◆もう1冊 
 中尾佐助著『花と木の文化史』(岩波新書)。世界の花の歴史をたどるとともに、日本の園芸文化の独自性を解説。
    −−「書評:花と樹木と日本人 有岡利幸 著」、『東京新聞』2016年10月30日(日)付。

        • -





http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2016103002000181.html








Resize3102



花と樹木と日本人
花と樹木と日本人
posted with amazlet at 16.11.08
有岡 利幸
八坂書房
売り上げランキング: 175,684