月光ソナタのエピソード

[ ベートーヴェンの誰でも知っている月光ソナタである。

 1994年封切りの映画「不滅の恋人/ベートーヴェン」でも、ジュリエッタ・グィッチャルディとの恋に夢中になるベートーヴェンが描かれている。ところで月光の曲には、巷説「月光の曲」などともいわれるもうひとつ有名なエピソードがある。シニアのある一定以上の年齢の人は大方知っているが、今の若い人たちは知らないようだ。

 そのストーリーのあらすじとは、−−ベートーヴェンが月夜の街を散歩していると、ある家の中からピアノを弾く音が聞こえた。良く見てみるとそれは盲目の少女であった。感動したベートーヴェンはその家を訪れ、溢れる感情を元に即興演奏を行った。自分の家に帰ったベートーヴェンはその演奏を思い出しながら曲を書き上げた。これが「月光の曲」である。−−というものである。

 この話は太平洋戦争前の国定教科書尋常小学校読本、6年生用の国語の教科書に載っていたらしい。この話の元の作者はペーター・リーザーという人。1834年にある雑誌に発表したものだが、全くのフィクションであるのにかかわらずあっという間に世界中に広まってしまったということらしい。リーザ自身はベートーヴェンに会ったこともないらしい。日本の教科書には1918年(大正7年)から載っていて、執筆者は井上糾という人のようである。

 私もこの話は子供向けの絵本などで何回となく読んだことがあるが、なかなか印象的な胸を打つ話、世界中に広まる、真の話のようにまことしやかに語り伝えられるという感じも道理だろう。