私が今年福島の桃を食べたい理由

桃の季節になりました。


去年は、福島県産の桃が売れない…という話を沢山ききました。私の住む関西でも、どう考えても安すぎる価格で福島県産の桃は売られていました。普段は見たこともないような品種の桃です。今年、私は「ちゃんとした値段で」福島の桃を買おうと思いました。twitterでたまたま見かけた福島県の方に「どの桃がいいですか〜?」と気軽に聞いてみましたら、大変親切に教えていただきました。その桃の名前は「あかつき」です。桃をJA伊達みらい直営の楽天ショップで注文したあと、福島の桃の除染の取り組みについて調べてみました。


昨年、福島県産の桃からは、基準値を下回る量の放射性セシウムが検出されました。福島県農業総合センターは、土壌と果実の放射性セシウム濃度を比較し、外国でのデータと突き合わせました。そこから分かったことは、「土壌中の放射性セシウム含量は、深さ5cmまでに全体の96%が存在していた(2011年5月現在)」こと、「外国で研究された文献の移行係数*1と比べ、モモでは最大値より高い値を示した」こと*2です。ここから、「樹園地の土壌は、粘土含量が比較的高いこと、カリウムは過剰傾向にあること、また、果樹は深根性であることなどを総合的に考慮すると、(略)樹皮など土壌以外の部位からの吸収・移行の可能性がある」と推測されました。*3


福島県のホームページ内、「農作物の放射性セシウム対策に係る除染及び技術対策指針」第1版(平成24年3月26日)の「果樹」の項を見ますと、確かに放射性セシウムが果樹の樹体に吸着しているというデータが掲載されています(図3−1)。また、ポイントとして以下のように記載されていました。

ポイント
果実から放射性セシウムが検出された原因としては、1根からの吸収、2樹皮や枝に付着した放射性セシウムの吸収・移行が考えられるため、以下のポイントに留意する。

  • 原発事故以降に果樹園の耕うんをしていない場合、土壌中の放射性セシウムは表層5cm以内に大半が存在していることから、表土の削り取りは高い除染効果が期待できる。
  • 果樹は深根性であり、耕うんすることにより放射性セシウムが主根域である下層土に移動し、根からの吸収が促進される可能性があるので、当面、果樹園での耕うんは極力実施しない。
  • 樹皮に放射性セシウムの付着がみられることから、樹皮の洗浄や粗皮剥・粗皮削りは高い除染効果が期待できる。
  • 整枝・せん定で放射性物質が付着した枝を積極的に切除すると、除染効果が期待できる。

土壌については、「放射性セシウムは粘土に吸着・固定されやすく、土壌へ降下してから100日程度経過すると土壌への固定が進むとされている(p.56)」との記述もありました。


このようなことを踏まえてと思われますが(時期的にはこの文書より前ですが『行政指導の元』とありますので)、伊達市の桃農園を含む果樹園では昨年11月〜今年3月までの期間に(真冬です!)、放射性物質低減対策として、高圧洗浄機による樹皮の洗浄または粗皮削りによる除染作業を実施したそうです。

特産のモモやカキ、リンゴ、ブドウ、プラム、サクランボ、ウメなど、管内全ての果樹園面積約2200ヘクタール・全樹木数約37000本を、一本一本丁寧に洗浄または粗皮削りを行いました。11月〜翌年3月までの冬期間に、生産農家や地域住民など、延べ35000人の作業員を導入。行政主導のもと、JA作業委託を受けて、地域・産地が一丸となって、果樹の除染作業を実施しました。


この作業を行った桃農家さんへのインタビュー動画がありました。これは、コープあいち、コープぎふ、コープみえの生活組合員が圃場を訪ねて撮影したものだそうです。

昨年は放射性物質があったということで、なかなか消費者の皆さんに受け入れてもらえなかったということがあったんですけども、今年の冬、1月2月3月、厳寒期の中、農家総出で除染作業ということで、くだものの樹の洗浄を行いました。その結果くだものの樹にある放射性物質は半分以下まで減ったということで、今年は去年よりは放射性物質が確実に減っているということになりますので、皆様にはぜひ福島の美味しいもんを是非食べていただきたいなと思っています。我々農家は何が嬉しいかっていいますと、やっぱり食べてもらった人に美味しかったよと言ってもらえるのが一番嬉しいんですね。そのために一生懸命、桃の木なり??の木なりを手入れするわけで、今年もみなさんにそう言っていただけるように、冬の寒い時期から作業頑張ってますんで、よろしくお願いします。
(動画より、うさじま書き起こし)


さて、このような作業が果実中の放射性セシウム量にどう影響したのでしょうか。「ふくしま新発売」という農林水産物中の放射性物質モニタリング情報検索サイトで調べてみました。「伊達市」の「モモ」、2011年5月〜2012年7月で検索してみます。2011年は44件、2012年は11件のデータが登録されていまおり、以下のとおりでした。

  • セシウム134について、2011年は6件(14%)でND(不検出)、検出された値の平均は24Bq/kg、最大値は79Bq/kg。2012年は8件(73%)で検出限界(2.1〜5.3Bq/kg)未満、検出された値の平均値は5Bq/kg、最大値は6.79Bq/kg。
  • セシウム137について、2011年は6件(14%)でND、検出された値の平均値は26Bq/kg、最大値は82Bq/kg。2012年では、4件(36%)で検出限界(2.3〜4.8Bq/kg)未満、検出された値の平均値は6.95Bq/kg、最大値は13.2Bq/kg。


検出限界は去年と今年で異なるのではないかと思われますが、とにかく放射性セシウム量は大幅に低下していることが分かります。時間の経過により、土壌に放射性セシウムの吸着が進んだことも関係しているとは思いますが、除染の作業の甲斐はひとまずあったのではないでしょうか(除染自体の効果は、厳密には、除染していない農園のモモと比較しないとわからないとは思いますが)。


JA伊達みらいでは、上記の検査とは別に、生産物の自主的な全戸検査を行なっており、こちらの結果は、現在までに1054点検査し、97%が検出限界(セシウム134+137で20Bq/kg)以下となっています。


というわけで、今年の福島の桃は、データに基づき合理的に除染が行われ、結果的に昨年より大幅に放射性物質量が低減しており、全戸検査により基準値(100Bq/kg)よりも(多くの場合、かなり)低いことが確認されている、農家の方々及び農業創業センターの研究員の知恵と苦労の結晶であり、なおかつ、今後わたしたちが「食の安全」を合理的に考えていけるかどうかを占うものでもあるのだと、私は思います。ですから、私は今年、福島の桃を美味しく頂きたいと思うのです。もちろん、「とても美味しい」という噂や、「光センサーで糖度を測って基準以下のものは出荷しない」というハイテク品質管理にも惹かれていることは前提としてです。


JA伊達みらいさんのHPでは、8月1日からあかつきの出荷が始まると書いてあります。あともう少しです。楽しみにしています。


JA伊達みらい直営の楽天のお店「伊達の蜜桃 web shop

*1:(果実の放射性セシウム量)/(土壌の放射性セシウム量)

*2:つまり、土壌の放射性セシウム濃度から推測される果実中のセシウム濃度より高かったということ

*3:オウトウ、モモ、ブドウにおける 土壌と果実の放射性セシウム濃度比較」より