内田樹著「街場のアメリカ論」

こんばんは。victoria007です。

さて、ワシントンから帰ってちょうど一週間がたちました。
旅行のレポートもまだまだこれから・・・という時に、内田樹先生が新刊をお出しになりましたので早速読んでみました。だって、先生がアメリカ論をお書きになったのよ。これは読まねばなりません。

街場のアメリカ論 (文春文庫)

街場のアメリカ論 (文春文庫)

内容は全部で11章ありまして、見出しをご覧いただければ内田先生がいつものように縦横無尽に論を展開なさっているご様子がおわかりいただけると思います。
1 日米関係の話
2 ファースト・フード
3 アメリカン・コミック
4 アメリカの統治システム
5 戦争経験の話
6 児童虐待の話
7 シリアル・キラーの話
8 アメリカ人の身体と性
9 キリスト教の話
10 社会関係資本の話
11 裁判の話

ちょうど今沖縄の基地問題でもめていることもあり、内田先生はマスコミにコメントを求められてお忙しいご様子。基地問題についての先生のご見解は基地問題再論 - 内田樹の研究室をご覧ください。

あとがきで内田先生は、アメリカが没落した後日本はどうするか、という問いをなげかけられておられます。

アメリカが没落ねえ〜。
難しいことはよくわからないし、ほんの一週間行っただけなんですけど、一言感想よろしいでしょうか。

今回の旅行で最大のハプニングは、行きの飛行機で乗り継ぎ便に乗り遅れたことでした。
その原因は、税関の入国審査がすんごい列で通り抜けるのに2時間以上かかったからでした。
デトロイト、恐怖の入国審査 - Victoriaの日記
仮に飛行機から一番に出て、走って税関に行けば、まだ列もできてなくて間に合ったのかもしれない。でも私の座席は一番後ろだったので、当然降りるのも最後でしたから、列の最後に並ばざるをえなかったわけです。

デルタ航空の基地はデトロイトだから、ほとんどの乗客はそこから乗り継いで最終目的地に向かったはずです。税関を出たところにデルタ航空のカウンターがあって、乗り遅れた乗客はみんなそこに並んでチケットを取り直したわけですが、私の見るところ、かなりの客がその列に加わっていました。税関で時間食って、乗り遅れるってのが常態化しているとみて間違いありません。

おそらく、デルタ航空はかなりの空席を抱えたまま、出発したことになります。
幸いワシントン行きの飛行機はたくさん飛んでいたのでその日のうちになんとか移動できましたが、目的地によっては、その便がその日の最終だったってこともあり得るかもしれない。
座席が満席でとれないことだって十分考えられます。

ちっとも進まない長い長い列に何度も何度も並ばされ、係員に何を聞いても「規則だから」という返事が返ってくるばかりで、誰一人、正確な情報を持っている人はいない。
自分の乗るはずだった飛行機が離陸する時間になって、まだ長い列の真ん中にいた私は、こういう光景昔見たことがあるよな〜、あれはどこだったっけ・・・と考えていて、突然思い出した。

ベルリンの壁が崩壊する前の、東欧やソ連がまったくこれと同じだった。
当時、アエロフロートは、必ずモスクワを経由することになっていて、しかも強制一泊というのがあり、西側諸国からの旅行客は、モスクワで強制的に一泊させられることになっていた。

モスクワで飛行機を降りて、その日の宿泊先のホテルまで監獄行きかと思われる窓に格子のついたバスに揺られて運ばれたこと。
飛行機ではスチュワーデスが決して笑わず、当時はスチュワーデスといえば美人と決まっていたのに一人も美人がいなかったこと。
機内サービスは最悪で、乗客を荷物のような扱いをしていたこと。

それらのことを、突然、昨日のことのように思い出しました。

デトロイトでも、乗り継ぎ客の便宜を図るという発想が、役人には全くありませんでした。

乗客の到着に合わせて、たくさんのブースを開ければすむことだと思うのに、少ししか開いていなかった。指紋をとって写真をとって、それでなおかつ宿泊先の確認や荷物の確認をするのだから、ひとり最低5分はかかる。語学の問題がある場合はもっとかかります。

私が聞いただけでも、税関で、日本語・韓国語・中国語・それにフランス語の通訳ができる人いませんか〜というアナウンスをしていました。決まり切ったことを繰り返しているだけなのに、そうやって乗客の中からいちいち通訳を募るってあまりにも行き当たりばったりすぎはしないか。それぞれの言語であらかじめカードか何かを作っておけば事足りるのに。

また、デルタ航空の客室乗務員があんまり笑わず、乗客に対してもていねいな言葉遣いをしなかったこともすごく印象的でした。アメリカ英語の特性なのかもしれないけど、例えば、ドリンクを配るとき、"Tea, tea."って単語を連呼するだけなのね。欧州線では、少なくとも "Would you like some drink?"くらいのことは言ったように思う。日本人の客も多かったので、日本語でもドリンクサービス回って来たんだけど、それも「お茶、お茶」っていうだけなので、なんかすっごく変だった。「お茶はいかがですか〜」くらい言ってもらわないと、何だか反応できないのよね。

全体的に、機内サービスは、おそらくこれまで乗った飛行機の中でトップを争うひどさだったと思う。映画を見ようと思っても前に大きいスクリーンがあるだけで見にくかったし、イヤホンが耳に少しも合わず、しかもちょっとひっぱっただけですぐに切れた。こんな経験、ベルリンの壁崩壊前のソ連や東欧以来してないと思うし。

だから、冷戦が終わってソ連がなくなって、世界中がお客様第一のサービスを提供するようになったと思っていたら、消費文明の先頭きって走ってたはずのアメリカがソ連化してるじゃないか、と思って。なんだかすっごくびっくりしちゃった。と同時に、それもあり得るかもと、妙に納得したのも事実。

だって、9.11以降アメリカがやってることって、警備を強化するという旗印の下、公務員の数を増やしたことでしょう。旧共産圏も結局、働いてる人がみんな公務員だから、みんな自分の責任範囲以外のことはすすんでやろうとせず、それが誰も責任をとらないということにつながり、利用者に多大の不便を強いるようになっていったわけでしょ。なんだか今のアメリカがやってることってそれと同じだな〜と思って。

もちろん、入国した後は、すんごい楽しかったわよ。
どこへ行っても荷物検査があるのをのぞけばとっても快適だった。
でも空港に関しては、まさに旧ソ連を見るようだった。

この件はまだブログにあげてないんだけど、実は帰りにアメリカ出国の時に荷物検査にひっかかって、買ったばかりの化粧品没収されたのね。液体は手荷物に入れちゃいけないっていうの、うっかりしてた私がばかだったんだけど。

でもね、それってほんとに買ったばっかりの新品だったのよ。
まだ値札もとってなくって。
当然アメリカ製品ね。

あれ、没収した後、どうなったのかしらね?
おそらく焼却処分することになってるとは思うけど、これが旧ソ連だったら、役人が持ち帰って横流ししてブラックマーケットで売りさばいてたわけ。

新品なんだもの、売りさばこうと思えば立派に売れると思うわよ。
私以外にも、マスカラでさえ「液体だから」って没収されたっていう友達もいるのよ。
一日空港にいれば、相当の量の化粧品が新品同様で没収されているはず。

疲れて文句言う気力もなく、みんな粛々と列に並ばされて役人のいいなりになってる様子を見て、「旧ソ連はこんなところで生きていたのか」ってほんとにびっくりしちゃったわ。

それで、内田先生のおっしゃる「アメリカが没落したら」って話。
旧ソ連がその後どうなったか・・・てこと考えると、没落どころの話じゃなかったりして・・・って思えてきて。

アメリカって、何でもあっという間に法律作って規制してしまうのがすごく得意でしょ?でもそんな法律できたことにまだ誰も気づいていなかったりして、それで身近でその法律にひっかかって罰せられる人が増えてきた頃にやっと気づいたりして。その法律はたとえ外国人であっても適用されるからいろいろめんどくさいんだけど、日本人って、「法律でこうなっているんじゃ」って言われると「わかりました」って素直に従おうとするじゃない?

だけど、世界の中にはあんまり言うこと聞かない国もあるわけで。
はっきり言って、アメリカと同じ文脈で動こうとすると勝ち目はないわけ。だって法律作った人が一番えらいに決まってるもの。

だけど、たまには「そんな法律、知らないよ〜」とか言って無視しちゃって、全然違う文脈で動く国もあって。そういう国って、アメリカのシミュレーション通りに動かないから、アメリカ人としてはやりづらいわよね、当然。そうやって、勝ちはしなかったけど、負けもしなかったのがベトナムなんじゃないかな〜って思って。

どっちにしても、あの機内サービス、あの空港での接続の悪さ、あの税関の要領の悪さはハンパじゃないから、なんとかしたほうがいいと思う。そうしないと、サービスの悪さで旧ソ連と肩を並べてしまうって。

アメリカがすごくって、アメリカが正しいっていうのは、アメリカ自身がそう言ってるんでしょ?
確かに、たいていのことに関してはすごいし、正しいかもしれないけど、全然すごくなくって間違ってることだってきっとあると思うのね。
やっぱり日本も何もかもうのみにしないで、ちょっとは自分たちの目で見て確かめて、ダメなところはマネしないようにするとかしていかないとね。

セントレアに着いた時、お掃除のおばさんたちがもう機外で待機していたのね。
それですれ違う時にみんなが一斉にお辞儀をして「お帰りなさいませ」って言うの。
ものすごくびっくりしちゃって。
アメリカでそんなあいさつ受けたことないもの。
それで税関に行ったら、私はほとんど一番のりだったんだけど、たくさんの乗客が降りてくるのに備えてすべてのブースを開けて、職員が全員背筋をまっすぐに伸ばして立って待ってた。

感動しちゃった。
これが日本人なんだって。
たくさんのお客さんが一度に出てくるのに備えて全員総出で待ってるって、サービスの基本じゃない?
日本もいろいろ形式主義だとか役所の仕事がのろいとか言われるけど、お客様サービスの点では負けないって思ったわ。
効率主義とか合理主義っていうのも一歩間違うと全然別の結果になってしまうのよ。
これからも日本人として誇れるようなお客様サービスをぜひ継続していきたいって心から思った。

victoria007でした。