錦城界隈散歩

 昨日は西尾市に出かける。メインはチェン・ミン二胡を聴くためである。音楽に造詣の深い友だちの薦めで、初めての二胡ライブを楽しんだ。
 二胡というか胡弓はいい。哀愁をおびた音色が心に響く。童話作家新美南吉の作品に「最後の胡弓ひき」なる作品があるが、そのイメージを膨らませるためにも、胡弓の音色を生で聴きたかった。
 蘇州夜曲、花期花会、古都……といい曲が続く。前半、チェン・ミンは白のチャイナドレスで演奏し、中入り後、赤い胡服風の衣装で現れた。母国の支那と胡弓の故郷の胡に敬意を表したか。
 後半、いい曲が始まった。リベルタンゴという曲である。アップテンポで曲想からは「和」がもっとも遠い印象なのだが、ところがワシャの脳裏には江戸の風景が極彩色で再現された。
 それはなぜか。この曲、「剣客商売」かあるいは「鬼平犯科帳」のエンディングテーマによく似ているのである。その類似性が、江戸の風景をイメージさせた。春の桜吹雪、夏の花火、秋の紅葉、冬の降雪……ううむ、この曲を聴けただけでも、西尾まで足を運んだ甲斐があったというものじゃ。

 さて、西尾である。かつては西尾6万石の城下町だった。ゆえに町の中にその痕跡があちこちに残っている。西尾駅の西には、塩町、肴町、瓦町、矢場町馬場町など、城下町によく見られる町名が並ぶ。
 その旧市街の南西に西尾城があった。これが錦城と呼ばれていたのである。
 現在は城跡が、歴史公園、小学校、幼稚園、文化センターなどになっているが、その広大な敷地がかつては城の縄張りだった。今は歴史公園内に本丸丑寅櫓が再現され、あとは堀が土塁が残っているばかりである。城跡としてはちと寂しい。それでも周辺には旧近衛邸や尚古荘などの古い建築物が残されており、往時の面影をわずかながら嗅ぐことができるのは、さすが城下町だけのことはある。
 とくに昭和初期に造られた尚古荘がいい。書院、茶室、待合い、東屋、門などがあるのだが、どれもいいんですけど、ワシャ的には待合が魅力的だ。鬱蒼とした樹木に囲まれ、ちょうど南向きの畳の間がその蔭になっている。ああ、ここでごろりと横になって、のんびりと本が読みたいと思った。
 ここは紅葉も見どころだという。また、秋にでかけるとするか。