鏡の顔

6月13日(土)、仙台文学館大沢在昌先生を講師にお迎えした「小説家・ライター講座」を受けてまいりました。


大沢先生は、写真で見ていたよりグッと押し出しが強い印象で、ぼくが繁華街の客引きだったら「社長! イイ子いますよ社長!」と真っ先に声をかけたくなるというか、彫りの深い端整なお顔立ちと恰幅の良さ、そしてよく通るバリトンのお声から、大物時代劇俳優を思わせる貫禄を感じました。


そのイイ声と巧みな話術で、グッと来るお話をいくつも聞かせていただきました。

  • デビューしてから長いこと売れない時代があった。その状況を打破したいと一年半ほかの仕事を断って力を注いだのが『氷の森』だった。しかしこれも売れず、じゃあ自分の好きなものを好きなように書こう、と刑事を主人公にした作品を書いた。それが『新宿鮫』だった。『氷の森』で自分の最高のものを出そうと全力で書いた経験が、結果として次の作品に力を与えていた。

新宿鮫 (光文社文庫)

新宿鮫 (光文社文庫)

  • 直木賞作家の大沢さん」と紹介されるのが一番さみしい。「『新宿鮫』の大沢さん」と呼ばれるのはその次にさみしい。「大沢さん」だけで通じるのが一番うれしい。
  • だが現実はそうもいかず、夜のお店でおねえちゃんに「宮部みゆき知ってる?」と聞けば「もちろんですうー」、「京極夏彦は?」「もちろん知ってますうー」「じゃあ大沢在昌は?」「誰ですかあー?」となるそうだ。
  • 売れなかったころ、編集者から「あなたの不幸は、北方謙三と同時期に和製ハードボイルドを書いていることです」と言われたことがある。その時、気分は野村克也であった。
  • 資料を読むときは、一冊につき三行ぐらいしか作品には生かせない。それでも読む。
  • 受講生から「一冊の資料から一行ぐらいしか生かせないような時もあると思いますが、切り捨てるつらさはどうされてますか?」と質問され、「そのときは、もう二冊読んで三行にすればいいんです」と即答。
  • 「新人賞の選考員をされていて、”これはモノが違う!”と思った新人はいましたか?」という受講生の質問に「福井晴敏」と即答。ただし、「最近はマーケティングにばかりその才能を使っている。ガンダムとかじゃなくてオリジナルの作品を書けばいいのに」とも。


講座の後の懇親会でも、(主に男と女について)グッとくるお話をいくつも聞かせていただきました。


ありがとうございました。