ホントークvol.5 〜伊藤直樹氏を作った本〜


 もうほとんど一ヶ月前、ちょうど地震が起こる前日に、【ホントーク】というステキなイベントに、@_zeny_君のお誘いでふらりと行って来ました。@表参道plsmis 3/11(木)のことでございます。




 ブックディレクターでBACH代表の幅允孝氏と、Sense Of Wonder主催でOBN代表小林宏明氏が毎回多種多様なゲストを迎えて繰り広げるイベントで、それは本のトークであり、本気トークでもあると。毎回ゲストに得意分野や仕事にまつわる本、また人生を変えてしまった本を5冊セレクトしていただき、そのセレクトを通じて多角的視点からトークを掘り下げて行くという、本好きにはもちろん、そのゲストに興味がある方にはたまらんイベントというわけです。


 で今回のゲストは、東京企画構想学舎でもお世話になりまくった伊藤直樹氏。学舎の授業を通して、この人がここにいたるまでの過程や体験をもっともっと垣間見られたら、今こうやって実践しているスタンスやスタイルの由縁が分かるのになあ、と思っていたので、とてもとても勉強になったと共に、「本って人を形作るし、それを知ってからその本をみると、その人のことを思い出すのだなあ」と、まさに幅さんが言っていた「本は自分の外部記憶」っていう言葉がよくよく分かったイベントでした。


 ちなみに伊藤さんが選んだ、5冊はこちら↓

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エロティシズム (ちくま学芸文庫)

エロティシズム (ちくま学芸文庫)



皮膚へ―傷つきやすさについて

皮膚へ―傷つきやすさについて



情報の歴史―象形文字から人工知能まで (Books in form (Special))

情報の歴史―象形文字から人工知能まで (Books in form (Special))



Ellen Von Unwerth: Couples

Ellen Von Unwerth: Couples



Andreas Gursky: Photographs from 1984 to the Present

Andreas Gursky: Photographs from 1984 to the Present

  • 作者: Marie Luise Syring,Lynne Cooke,Rupert Pfab,Kunsthalle Dusseldorf
  • 出版社/メーカー: Te Neues Pub Group
  • 発売日: 2001/04
  • メディア: ハードカバー
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 僕自身、それぞれの本を未読ですので、あんまり知ったような伝聞をここに書くのは控えますが、ひとつまず思ったのは、「普遍的に価値のある、人間の本質や身体に近い内容の本が多い」ということ。イベント中に伊藤さんは「僕は快楽主義者」と何度か言っていて笑、ただこれは忘我のまま快楽を追い求めるとかそういう意味ではなくて、自分の身体の、理屈ではなく好む方向や感性にとても正直でいたい、という感覚という意味で。ナイキの仕事に象徴されるように、とてもフィジカルで身体が喜ぶような表現をたくさん世に生み出してきた彼のその信条と、【エロティシズム】【皮膚へ】などのような、肉体と精神、欲望と理性の関係や考察に踏み込んだ本がここに出てきたのはとっても聞いていてつながったんですよね。


 あと、哲学書を読んで良かったと思うこととして、「抽出力」の話をされてました。哲学者の中でも、たとえばカントのような体系立て・論理立てがモットーの学者もいれば、一方でニーチェバタイユのように、比較的自分のそのときの衝動に正直に、目の前の日常をくりぬくような、粗かったり脈絡に乏しいながらもみずみずしい気づきがそのまま収められた学者がおって、伊藤さんは後者の書籍から素晴らしい「抽出力」を感じるそうです。人と同じものを見ていながら、人が気づかない・感受できない何かを受信して書き記す能力が、抽出力。これはとっても大事なことだと思う。そのことに気づいてから、「未知は無条件で楽しいはず」という心構えを持つようになり、それからは自分に入ってくる情報や感情の揺れ動き、発想、アイデアが何倍も広がったそうです。しかしバタイユを18歳のときに好きで好きで何回も読んだって、確かにちょっと変わってる笑

 
 【情報の歴史】は松岡正剛氏の、ザ・博物学な一冊で、有史以降の人類の情報のあり方を全部年表にプロットしたという、キチガイのように大変な一冊。まだインターネットがなかった時代に編纂されたこの一冊をヒマなときに面白がってパラパラ読んでいたそうで、今になって考えてみればこの本の索引のあり方こそ、情報アーキテクトの思想を具現化しており、つまりインターネットの考え方を本でやっちゃっていたという、そこに価値を感じていることからの選書。読んでみたいけど、絶版で、中古で求めてもえらい値段するらしいです。せめてどっかに蔵書があれば、今度読んでみようと思います。


 【Couples】エレンフォンアワースと【Photograph from 1984 to Present】アンドレアス・グルスキーの二冊は共に写真集。前者は、ただひたすらカップルばっかり収めた写真集で、被写体への凄まじい寄り・心の解き方が選書の理由。このエレンさんっていう女性は自分も元々モデルだった方で、被写体の方への理解の深さがすごく、加えてスタジオを完全に締め切って自分とカップル2人だけで撮ったんだそうです。だから、カップルたちの素ではじけた幸せフェイスがまぶしくてまぶしくて。これはなかなか撮れないわ。対するアンドレアスさんは、ビル・マスゲーム・工場・駐車場・・・などなどの人工的幾何学的な風景を絶妙に空怖い角度で切り抜く、いわゆるコンセプトがすごいタイプの撮影家の方で、なんともいえない人工物への畏怖みたいな念が去来したなあ。


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 イベントが終わってから、個人的に伊藤さんを捕まえてちょっと話すことが出来ました。「流し見するものと、じっくり咀嚼するものの峻別はどのようにしているのか?どうやってできるようになったのか?うちぐらいの年齢のときは何を読んでいたのか?」を聞いたんですけど。今は、ばーーーっとみて、アンテナにかかったものにズズズっと没入する感覚らしいです。ただそれは極々最近切り替えた脳のギアらしくて、うちぐらいの20代中盤の時はひたすらインプットしていたと。何しろ、何事に対してもポジティブな構えで、こちらからつまらない・興味ない・できない・分からないというフィルターを一切かけなかったらしいです。そりゃもう、寝てるヒマないよねw ただ、意外にも、「20代のうちは仕事で大して活躍しなくても怒られないから今のうち」とも言われました。責任が少なく、思いっきりインプットできるのは今のうちで、30代になると徐々にアウトプットのクオリティを求められるようになる。それまでにいかにインプットできるかが、その後の人生のバックアップの深さになる。だから変に興味の範囲を限定せずに、とことん受信しよう、深堀しよう、と。若いうちから下手に優秀だと思われないほうがいいよ、とも言ってて、面白かった笑


 これは目うろこやったなあ。即物的なビジネス書籍(1年後には内容が古くて意味がなくなるような)ばかり追いかけてトレンドセッターぶるよりも、普遍的で深遠な人間理解に近づけるような、古典や文学、学問・学術書をもっと読もうと切に思いました。パッと読んだときに眠くなっちゃうものや理解できないものを、簡単に忌避しすぎたなあと。「分からない」ということにどれだけ楽しんで挑めるかこそ、抽出力だものね。大変だし、際限なく寝る時間がなくなるような気もするけど、程ほどにいろいろと食べてみようと思います。


 週イチでの雑誌乱読は継続しながらも、浴びるようにインプットする20代でいこうと思いました。とっても経験値濃い目のイベント。行ってよかった。快楽主義で行きましょう!笑


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 本日の一曲:

 


 特に脈絡はないんですけど、なんか聞きたくなったので笑 この人たちは、ほんとMCが面白いんですよ、ライブ2回くらい行った事あるんだけど。ほんとくだらないし、めっちゃ長い笑 曲は、とってもいいよ。