静かならざる聖夜前
コンパーニュの塔にて。
日野木アリナ(ヒノキちゃん)と護衛騎士ゲンブの前に現れた謎の男は、予言者ノヴァストラダマスを名乗り、この世界の終わりが近づいていることを告げた。
しかし、ヒノキちゃんは、予言者のもう一つの顔を指摘すると、観念した男は正体を明かそうとするのだった。
謎の男「予言者とは世を忍ぶ仮の姿。しかして、その実体は?(ベリッと顔をはがす)」
ゲンブ「何と。赤いふかふかの衣装に、白いヒゲ。そして背中に背負った白い袋。まさか、お主の正体は?」
ヒノキ「やはりな。予言者に化けてはいたが、案の定、快盗ルパンレッドであったか。おおかた、その白い袋の中に、盗んだルパンコレクションが入っているのであろう」
ゲンブ「いや、アリナ様。どう見ても、この男は快盗ではないでござる」
ヒノキ「何を言うか、ゲンブ。お主の目は節穴か。タイムジャッカーでもないのに、他人の塔に勝手に忍び込んで、巧みな変装術で人の目を欺き、しかも風変わりな赤いコスチューム。これが快盗ルパンレッドでなくて何だと言うのだ?」
ゲンブ「いや、ルパンレッドはもっと若い男性だったはず。この男はどう見てもヒゲ面のおじいさん」
ヒノキ「うむ。TVで見るルパンレッドとは少し違うようじゃ。ということは、アナザールパンレッドかも知れん。だとすると、こやつを倒すには、本物のルパンレッドの力を宿したライドウォッチか、あるいは妄想キツツキパワーが必要となろう」
ゲンブ「いや、素直にサンタさんという発想はないのでござるか?」
ヒノキ「サンタだと? フランケンシュタインの怪獣で、山に住む輩か?」
ゲンブ「それはサンダでござる」
ヒノキ「ならば、動物たちの謝肉祭を作曲した……」
ゲンブ「それはサン・サーンス」
ヒノキ「ならば、星の王子さまを書いた……」
ゲンブ「それはサン=テグジュペリ」
赤服の男「どうやら、博識のアリナ殿もサンタを知らないようでござるな。セイリュウ、シノブ、ルールーに加え、これでサンタを知らない四天王が誕生したようだ。祝え、サンタを知らない四天王誕生の瞬間である!」
ゲンブ「どうして、クリスマスを知っているのに、サンタを知らないなどということが有り得ようか。嘆かわしい」
ヒノキ「いや、さすがにサンタを知らないわけではないぞ。そりゃ、わらわは日本神道に属する神霊でもあるからして、外国の祭りを祝う習慣は持ち合わせていないが、ニチアサを見ていれば、普通にサンタぐらいは分かる。かつてはウルトラの父が変身したりもしていたしのう。だが、この男がサンタであるとは、わらわにはどうしても考えられん。何しろ、サンタもまた伝説上の存在だからな。このようなところに出現するはずがない。この男はきっとサンタの名を騙る不届き者じゃ」
赤服の男「いや、名を騙るって、わしが自分でサンタを名乗ったわけじゃないから、それは濡れ衣だと言っておく」
ヒノキ「では改めて聞こう。予言者が仮の姿で、サンタでもないのなら、そなたの名は何と申す?」
赤服の男「フッ、この赤い聖衣に身を包んだわしこそは……」
ゲンブ「わしこそは?」
赤服の男「トナカイ座タランドゥスの聖闘士(セイント)ニコラウスという」
ゲンブ「トナカイ座? そんな星座はあったのでござるか?」
ヒノキ「今はない。だが、18世紀にフランスの天文学者ピエール・シャルル・ルモニエが考案した幻の星座の一つと聞く。もう一つはツグミ座。さらに、イギリスの物理学者トーマス・ヤングはキツツキ座を提唱したとも聞く。現在の88星座は、1922年にIAU国際天文学連合が制定したもので、古代ギリシャやローマで使われていたトレミーの48星座を土台に、南半球の星座を加えたものとされているが、採用されなかったものもあるのじゃな。やまねこ座リンクスはあるが、ねこ座フェリスは消えたし、近年はNASAによって、ゴジラ座やエンタープライズ号座、シュレディンガーの猫座、ハルク座、ムジョルニア座、エッフェル塔座、アインシュタイン座、富士山座などが認定されている。こうなると、近い将来、ゴジラ座の聖闘士なる存在が爆誕する可能性もなくはないわけで」
ゲンブ「ガメラ座は? いや、普通に亀の星座はないのでござるか?」
ヒノキ「水がめ座アクエリアスはあるが、それは水亀ではなくて水瓶じゃからのぅ。亀の星座は諦めよ。それよりも、トナカイ座の聖闘士がこの塔に何用じゃ。返答次第によっては、朱雀幻魔拳をくらわせるぞ」