奥田英朗 最悪

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あらすじ

大手の孫請けをする町工場の経営者川谷真次郎は工場の向かいに出来たマンションから騒音問題で難癖を付けられ、その首謀者に対して傷害事件を起してしまう。
銀行職員をしている藤崎みどりは窓口に特に用もないのにやってくる孤独な老人とセクハラ支店長、そしてぶらぶらしている妹に迷惑していた。
野村和也は家を捨て、愛知県の外れで肉体労働をしていたが、同じく働いていた人間が辞めたことを機に東京に出てきた。やはり初めは住み込みで働いていたが、段々とパチンコや恐喝、窃盗で生計を立てるようになる。だが、ドジを踏んでヤクザから金を要求されるような状況になってしまい、金を作ろうと方々で犯罪を犯すのだがどんどん泥沼にはまり込む。
藤崎みどりの妹である藤崎めぐみはたまたま知り合った野村和也対して銀行強盗を仄めかす。
四人の運命が一つへと向かって収束していく。

感想

奥田英朗十一作目。えらい典型的ノワールです。人生なーんも良いことなんかありゃしねぇを体現するための話と言っても佳いですね。人間の澱とか汚穢とか汚濁とかを寄せ集めたような日常から少しずれた世界。でもノワールほどずれすぎない。転落は誰の身の上にも起こるを信条に書き下ろしたっぽいですね。その転落は大抵金そして犯罪に端を発することが多いわけです。怨恨の場合は短絡的な致傷・致死に至るケースが多いのだけれどそういう場合はあくまでも特殊と言える。誰もが簡単に陥穽に落ちる可能性があるのが金だ。金がないのは首がないのと同じとはよくいったもんだわ。
それにしても中小企業や零細企業は日本には沢山あるというのに何故かそういう縁の下の力持ちを虐めることが多い。製造業なんてそういった下っ端がいなければ駄目なのに国外に工場を新設する事を仄めかしたりして国内産業を潰そうと画策してたりするからなぁ。それに引き替え銀行は・・・っていうのは中小企業の皆さんが思っているとおりですね。ペイオフ解禁までアホの如く抵抗したり、バブルで狂ってツケを作りまくったのは何を隠そう彼らですし。てか、バブルを作り出したのは金融業界なわけだから失われた十年の戦犯は彼らかと。でも未だに彼らは一般業種よりも割高の賃金を貰ってますけどね。これは銀行の金に手を付けないように高めに設定しているという背景があるみたいですけど、そんなに高額の賃金を払うぐらいなら、貸し渋り貸しはがしなぞやらずにきっちり貸すことをやり遂げて欲しいですな。それにしてもこちらが預けていても金利は馬鹿みたいに安いのに、貸す方にまわるとひたすらにきっちり利率を取るとかやってられません。銀行法の改正はやっぱり必要ですわ。やっぱりここで表現されているのってホワイトカラーによるブルーカラーの差別なのかな・・・。職業に貴賎なしってもう過去の言葉だし。って横道に逸れまくりかな。
前述したように社会性を取り入れているが少し弱いね。例えば正論が耳障りのいい、一方的な通告に絞られてしまっているのにはちょっと閉口。話し合いになっていないのに話し合いとしている部分は問題外でしょ。私の家の真向かいと裏にゴミ屋敷があってそれが問題化してるんだけど*1、裏は出ていって、真向かいは未だにゴミの山ですよ。政治家に働きかけたぐらいで簡単に行政が動くとかいうことはないかと。その感覚ははっきり言って昭和の物ですよ。騒音が問題化しているんだから普通は騒音を出している側ではなくて、建設やその誘致をしたゼネコンを訴えるのが普通は筋でしょう。契約上ではそれが多分かかれてはいないだろうからねぇ。いくらなんでもすぐに根源を訴えるのでは賢い方法とは思えない。防音対策をしていないマンションを購入した側の手落ちは考えずに一方的な主張として就業時間を規定したり、何時間までは認めるなんていうのは越権以前に侮蔑行為以外のなにものでもないかと。こういうのを世間では馬鹿といいます。まぁこういった馬鹿が強権的な手腕を発揮すれば認められるというのも滑稽な話ですねぇ。ま、狙ってやってますから
やはり視点人物の人数を増やしているが現代的金銭的困窮がメインに据えられているから類型相似形を脱していないわけだ。故に中盤でもラストへの基本的筋が見え透いてしまうんだな。ってことで安っぽいのは否めない。ただ、ノワールを読み慣れていない人の場合はここに異次元的な新奇さを発見するんだろうけど、流石にこれはないわ。単なる暴走、精神的錯乱、やがて理知の欠片もなくなり、理非ではなく情動でもなく成り行きで話が進むように見えても作り込んでるから見え透いちゃってる。てかパターン化が激しいんだよねぇ。
どの人物も決して望んでこういった境遇になっているわけではないというところに力点を置いて作っているね。全て運の巡りが悪くて、そしてたまたまこうなってしまったと。
現代人の社会的生活の負の部分だけを取り集めた本書はさながら悪趣味陳列棚の様相を呈しています。これもまた一つの社会の抱える真実であるからわからなくないけれど、正直すぎる筋よりも謎の介在が欲しかったね。やっぱり破滅が中途半端なので落とし所が不明なのと、題に偽りが有る感じがする。『最悪』が表題なのに誰も最悪の事態に陥っていなくないかい?。最悪の事態に陥ったけれど命だけは助かった?そういうことなのだろうかね。これを救いとしてしまうのはちょっと異論があるわ。命があるだけマシ、そう考えるのは戦前派なのではなかろうかと思うわけですよ。現代人はもっと刹那的ですよ。自殺なんてありふれていますし、自動車事故による死より頻発してますから。横並びは日本人の悪い癖だな。一人ぐらい自死を選ぶとかきちんと殺人を犯すとか本当の意味での終了を位置付ける昏いの気概があった方が良かったと思う。リアリティを標榜する癖に結末にそれほど大きな格差がないんですなぁ。あくまで段階的な違いに落ち着いてしまったのがなんとも後味が悪い。その中で一番軽傷だった人物は一種希望を持たせるように書かれていますけど、根源的な解決には至っていないわけだし・・・正直どうなの?結局弱さが際だっちゃいましたねぇ。
うーんやっぱり『邪魔』の方が先行きの見えない感じや、心理描写も含めて面白かったと思う。こちらの方が一段劣るわ。
65点
方向性では『ララピポ』に近いかな。で?どうしたいの?ってのも含めてね。

参考リンク

最悪
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最悪
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*1:今はまだ暖かくなっていないので物の腐敗による悪臭・大量の虫の発生は食い止められてる。なお、猫屋敷でもあり二階建ての一軒家に猫が30匹近く生息している異常な状況です。当然動物愛護関係の団体に通報済みですが、実際何にも出来てません。猫の屎尿が悪臭・虫の発生源にもなっているので非常にヤバイ。半径10メートル兼は夏場は窓開けると臭くてやってられないですわ。なんで車の中までゴミで一杯にしているのか謎でしょうがないです。ゴミや屎尿の始末ぐらいは本書で語られているどうにもならない類のことではないので何とかして欲しいですが、話し合いを持とうとしても逆ギレして怒るだけなんで周辺住民は訴訟をしようということにまとまりかけてたんですけど、季節的に涼しくなって匂いが収まってきてしまったので現在停滞状態。梅雨あたりからまたやばくなってくるのではないかと戦々恐々。片付けられない女が三人もいるってのは恐ろしいですねぇ・・・。