藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

本質は結果ではないこともある。


えらく円安である。
まず12年半ぶりだという。
株価は27年ぶりの続伸記録で、まだ最高値には遠いけれど上昇気配だ。
記者の田嶋さんは分析的に「円高時代の終焉」を指摘しているが、この円ドルレートの動きは82年以来33年ぶりだという。

それはともかく。
自分も五十年ほど生きてきて、腑に落ちないこと。
それは「事象の一回性」である。
よく契約書を作るときに「契約書の一回性」という言葉が使われる。
全く同じ契約は二度となく、その互いの合意条件というのは無数にあるというのだが、どうも「経済現象の一回性」というのを感じてしまうのである。
12年ぶりの円安とか、27年ぶりの続伸とか、はたまたプラザ合意以降のトレンドとか、実に様々な分析の仕方があるし、また今のような局面では誰もが「一説ぶちたくなる」のかもしれない。

けれど自分の高々三十年足らずの社会人で過ごした実感から言って「先を言い当てた人」というのはあまり聞かない。
アナリストもコンサルタントも学者もまるで後付けである。

まるで先の震災の解説のように、地震について、原発について、津波について、安全基準について、責任回避や責任転嫁も含め、皆が言い訳をしていたのと実に似ている。
そもそも経済なんて変動要因が多いのだから、いろんな仮説があって当然だけれど、

実は「過去に基づいた類推」というのはそれほど未来を読むには役には立たず、「起きた現象」についての解説に都合がいいだけではないか?
と思うのである。

「未来は常に予想できない」というと身も蓋もないけれど、少なくとも相場や為替が局所的にどういうトレンドになるか、ということについては"それ"を単体で予想するのは難しいのではないかと思う。
30年ぶりの経済循環があるのなら、自分の寿命から考えて「多くて二回くらい」しか体感できない。
だからといって「後付け理論」ばかり探して、それで将来を予想する、というのは何か違うと思うのだ。
年齢のせいもあるのだと思うけれど、そういう「外部要因の分析」に時間を費やすのではなく、自分の本業とか、仕事のコンセプトなんかを考え直す方がよほど建設的なのに違いない、とこの度は確信している。

やじ馬はもう卒業したいな、と思ったのであった。

これまでの円安・ドル高の経緯を振り返り、今後の行方をあらためて展望する
2015/06/03
経済アナリスト 田嶋智太郎 氏

 ついに、対円でのドル相場が2007年6月の高値水準(1ドル=124円14銭)に到達し、一時は125円台と、およそ12年半ぶりの円安・ドル高方向へ傾く展開となった。一方、強まる円安傾向を横にらみしながら、その動きに呼応するかのように株価も連日上昇。日経平均株価は6月1日まで12日連続で上昇し、バブル期の1988年(13日連続)以来となる27年ぶりの続伸記録を残すこととなった。
 結局、日経平均株価の5月の月間上昇幅は1043円と21年ぶりの大きさとなり、同じ5月に東証1部の時価総額は25年ぶりに過去最高を更新するに至った。前回(5月11日)更新の本欄(「5月に売り!?日米株価の今後の行方は」)で、筆者は「Sell in May(5月に株を売れ)」のアノマリーをあらためて話題として取り上げたが、そんなアノマリーなど"まったくお構いなし"といった状況で、5月の株式相場はまさに記録ずくめの強さを投資家に見せつけている。こうした昨今の展開から読み取れるものとは一体、何なのであろうか。少なくとも、かつて長らく続いた"デフレの時代"の常識や感覚がもはや通用しなくなっていることだけは間違いないようである。
1ドル=124円台が意味する重要なこととは? 昨年(2014年)12月3日更新の本欄(「もはや円安・ドル高の流れに歯止めは利かないのか?」)で筆者は、2015年を展望しながら「もともと筆者は『2015年〜16年あたりにかけて壮大な円安・ドル高&日本株高相場となる可能性がある』と見てきた」と述べている。

 そのときに大きく3つ挙げた根拠のうちの3つ目は、過去の対円でのドルの値動きにおいてハッキリと確認できる「8〜9年高値サイクル」の考え方に基づくものであり、そこで筆者は「次は2015〜16年あたりに一旦、当面の天井をつけにいく可能性が高い。水準のことを言えば、やはり前回の天井であった1ドル=124円が意識されやすいだろうし、仮にその水準を超えれば125〜130円あたりまで円安・ドル高が進む可能性も十分にあるものと考えられる」とも述べた。この「2015〜16年あたりに125〜130円」という想定を、筆者はもう何年も前から掲げている。そして、ついに対円でのドルは2007年6月高値の水準(1ドル=124円14銭)に到達し、さらに同水準を超えた円安・ドル高の水準へと傾いている。

 ここで一つ明らかになったことがある。それは、もはや以前のように8〜9年ごとにつける対円でのドルの目立った高値が、段階的にその水準を切り下げていくパターンの繰り返しが、ついに終わったということだ。下図に見るように、2007年6月につけた対円でのドルの高値(124円14銭)は、その約9年前の1998年8月につけた高値(147円63銭)よりも水準が低く、この1998年8月高値は、その約8年前の1990年4月につけた高値(160円35銭)よりも水準が低い。さらに(それ以前にまで遡ると)、この1990年4月高値は、その約8年前の1982年10月につけた高値(278円50銭)よりもかなり水準が低いのである。
 ところが、いまやドルは対円で約8年前の2007年6月につけた高値を上回る水準にすでに達している。言い換えると、2007年6月高値から2011年10月安値までの下げ幅に対して、その100%に相当する値幅を取り戻した、相場の世界でよく用いられる言葉にすると「全値戻し」を達成したということになるわけだ。

対円でのドルの値動き(1990年以降)(出所)アルフィナンツ作成
 実のところ、このことについては5月28日の日経電子版において清水功哉編集委員が執筆した「33年ぶりの衝撃 円安、124円30銭の真の意味」という記事においても触れられている。この記事内容は6月1日付の日本経済新聞朝刊の「羅針盤」においても、少し形を変えて紹介されている。清水氏によれば、前述したように対円でのドルの動きが過去の目立った高値に対して全値戻しを達成する格好となったのは1982年以来、約33年ぶりのことだという。
 もちろん、大事なのは「約33年ぶり」という言葉のインパクトよりも、むしろ対円でのドルの動きが一定期間を経るごとに過去の目立った高値を上抜けるパターンへと変化してきたこと自体にある。このことにより、あらためて1971年8月のニクソン・ショックから2011年10月下旬まで約40年にわたって続いた「円高の時代」が完全に終わった、すなわち、歴史的な円高基調が転換したとの見方が、一層強まったと言えよう。

「大きな流れは円安・ドル高」との感触が強まった経緯 
振り返ると、多くの市場ウォッチャーらが「流れが変わった(=円高の時代が終わった)」との感触を最初に得たのは、2012年2月のことであった。それは、対円でのドルの月足が、2007年6月高値と2010年5月高値を結ぶ直線、すたわち、上値抵抗線を、ロウソク足の実体部分(上下に伸びるヒゲを除いた部分)で上抜けたことによる。実のところ対円でのドルは、2011年10月に75円台の安値をつけてから一旦は反発したものの、それから数カ月の間は前記の上値抵抗線を上抜けることができずにいた(下図参照)。

次に「流れが変わった」との感触が強まったのは、2012年11月のことである。それは、対円でのドルの月足ロウソクが、その実体部分で31カ月移動平均線(31カ月線)を上抜けたことによる。ここで31カ月線に注目するのは、一口に言うと過去の相場との間に強い相関関係がハッキリと認められるからである。

さらに、2014年2月には31カ月線が62カ月移動平均線(62カ月線)を下から上に突き抜けている。このときの62カ月線は「上向き」であり、上向きの62カ月線を31カ月線が上抜けたことは過去に例を見ない。ここで62カ月線に注目するのは、「31」と同様に「62」という数字に大きな意味があるからである。

とにもかくにも、2014年2月に31カ月線が62カ月線を超えたことで「相場の流れが明らかに変わった(=円安・ドル高基調に転じた)」との感触は一定の確証を得ることとなった。加えて、2014年9月には対円でのドルの月足が2002年2月高値と2007年6月高値を結ぶ上値抵抗線を難なく上抜けた。これはいわば"ダメ押し"で、さらに今回は前述したとおりの「全値戻し」達成である。

思えば2012年2月以降、こうして円相場の基調が「円安・ドル高の大きな流れに転換した」との見方は、最初のソフトな感触からより強い感触、そして自信、確信へと段階的に強まってきたのである。

ドル/円相場の長期的推移(月足)(出所)アルフィナンツ作成

対円でのドルには、まだ一定の上値余地が残されている!? 繰り返しになるが、対円でのドルは2007年6月に124円14銭の高値をつけてから約8年の時を経て、再び124円台にまで戻ってきた。気になるのは、依然「8〜9年高値サイクル」というパターンが有効であるならば、そろそろサイクル高値をつけて一旦は反落してもおかしくないのではないかということである。

結論から言うと、少し長い目でいずれ"そのとき"が訪れる可能性は否定できないものと思われる。ただ、それは必ずしも"今すぐに"ということもでもなかろう。
 ファンダメンタルズの面から言うと、周知のとおり、ここにきて市場は、米国経済が4-6月期以降に持ち直すとの見方に対する自信を少しずつ取り戻し始めているように思われる。7-9月期以降は一段と加速し、そうしたなかで年内の米利上げが現実のものになるとの見方も根強い。一方、日本の物価上昇率が目標の2%に遠く及ばない現状にあって、日銀は目標到達時期の目安を最近「2016年度前半あたり」と後ずれさせてきている。

こうしたことから導き出されてくるのは、少なくとも今しばらく足元の円安・ドル高基調は継続する可能性が高いということである。もちろん、短期的な行き過ぎに対しては、今回もそうであったように日米政府高官からの口先介入なども入りやすい。よって一足飛びで一段の円安・ドル高というわけにもいくまいが、やはり当面は対円でのドルに一定の上値余地が残されていると見ていいものと思われる。

振り返れば、2013年5月下旬から同年10月下旬まで、対円でのドルは5カ月ほど三角保ち合いを形成し、後に上放れて2014年1月2日高値(105円44銭)まで約8円分値上がりした。これと同じ値幅を、今回のドル上昇のスタートとなった119-120円処に足すと127-128円となり、そのあたりが当面の上値目標になってくるのではないかと思われる。5月30日午前のテレビ番組に生出演していた慶応大学の竹中平蔵教授は、相場はときにオーバーシュートするものと前置きしたうえで、「購買力平価の観点から127円程度までの円安進行もあり得る」などと述べていた。

いまだ米利上げの時期は明らかではないが、リーマン・ショック後初の利上げが実施された後、2回目以降の利上げ実施が決定されるのはかなり先のこととなろう。よって、感覚的には米国の初回利上げに相前後するようなタイミングで対円でのドルは高値をつけ、一旦は調整局面入りするのではないかと思われる。もちろん、調整と言ってもその期間は比較的限られ、その底も比較的浅く済むものと見られる。

一方で、米利上げの可能性が高まるほど米株価が一旦調整局面入りする可能性も高まりやすくなる。その意味で、日経平均株価の調整は対円でのドルの調整よりも早い段階で生じる可能性はあろう。いよいよ米利上げの時期が近づいてきたとの市場の見方がドルを押し上げ、同時に日経平均株価をも押し上げているのだとすれば、ここからは少々神経質な対応を求められることになるとも言えよう。

田嶋 智太郎(たじま ともたろう)
1964年生まれ。慶応義塾大学卒業後、現三菱UFJモルガン・スタンレー証券勤務を経て転身。転身後は数年間、名古屋文化短期大学にて「経営学概論」「生活情報論」の講座を受け持つ。金融・経済全般から企業経営、資産運用まで幅広く分析・研究。新聞、雑誌、Webに多数連載を持つほか、講演会、セミナー、研修等の講師や、テレビやラジオのコメンテーターとしても活躍中。主な著書に「財産見直しマニュアル」(ぱる出版)、「外貨でトクする本」(ダイヤモンド社)、「株に成功する技術と失敗する心理」(KKベストセラーズ)、「はじめてのFX『儲け』のコツ」(アルケミックス)、「日本経済沈没!今から資産を守る35の方法」(西東社)など。