岩根圀和「物語 スペインの歴史」

物語 スペインの歴史―海洋帝国の黄金時代 (中公新書)

物語 スペインの歴史―海洋帝国の黄金時代 (中公新書)

 イスラムの歴史を追っかけているうちに、一時はイスラムが支配したスペインの歴史に興味を持つ。これを読むと、イスラムは解放者としてスペインに登場するのだな。キリスト教ユダヤ教も許容する。しかし、その一方で、イスラムの権力層はなぜか時を追うごとに内部闘争にエネルギーを消耗し、自壊していく。スペインのイスラム勢力の衰亡も自滅といっていいもの。キリスト教徒との野合とも言えることを策すイスラム指導者が出てきて、崩壊していく。一方、キリスト教、特にイスラムからスペインを解放したカトリック勢力は「民族浄化」ともいっていい暴力的政策で、イスラムユダヤを殺戮・放逐していく。異端審問所というと、魔女狩りを思い起こしてしまうのだが、「民族浄化」のための暴力装置だったんだなあ。スペインは内に民族浄化、海外にあってもアメリカ大陸でインディオから土地も財産も奪い、殺戮に走った。いまやスペインというと、明るいイメージだが、歴史は血の色をしている感じ。で、このスペイン史の本、「物語」というタイトルが入っているように、ところどころ臨場感豊かな描写で小説を思わせるようなところがある。ただ、これが何らかの資料で裏打ちされた歴史的考証に基づく再現なのか、作者の想像の産物なのかはわからなかった。「ドン・キホーテ」のセルバンテスの登場場面が多いのも特徴。