あなたの敵はバカだらけ。ステレオタイプは思考停止への最短ルート
国民性や民族性をネタにして笑いを誘うエスニック・ジョークというジャンルがあります。有名な例では…
いろんな国の人が乗った豪華客船が沈没しそうになった。
それぞれの乗客たちを海に飛び込ませるには、どんな言葉をかければいいか。
このジョークの中では、さまざまな国民性が「ステレオタイプ=型にはまった画一的なイメージ」で表現されています。
この手のジョーク、ぼくはけっこう好きなのです。しかし、笑いではなく本気で「ステレオタイプ」を信じるようになると、言い換えれば、あるグループに属する人々をあまりにも単純化・画一化したイメージで扱うようになると、厄介な事態を招くことになります。(本当は順序が逆で、本気で信じる人がいて厄介な事態を招くことがしばしばあるから、ジョークのネタになるわけですが)
「女は感情的だ」「男は鈍感だ」「ゲイは軟弱だ」「レズビアンは男性を敵視している」…信頼できる証拠もなしに決めつけが行われると、その人の持つ個性や、その時々のデリケートな状況が無視されることになります。
「嫌煙家はヒステリック」「喫煙者は暴力的」「郵政民営化に反対する者は国民の敵」「憲法改正論者は好戦的」「護憲論者は平和ボケ」……議論の相手をステレオタイプに押し込めれば、「根拠から筋道立てて結論を導く」という議論の論理性が無視されることになります。
武力や実力行使をともなう敵対的関係になれば、さらにステレオタイプが威力を発揮します。アメリカ大陸に入植した白人は、大陸の原住民を人格を西洋人よりも下位に属する存在とみなすことで、搾取を正当化しました。ナチスはユダヤ人を劣等民族だと決めつけ虐殺しました。日本の歴史でも、さがせばいろんな例が見つかりそうですね。
敵をステレオタイプ化することで、その敵は攻撃を受けて当然の存在だとみなされることになります。ステレオタイプ化をおこなうことで、良心の呵責から免れることができるようになります。
ステレオタイプの多用は思考放棄・思考停止への最短ルートでもあるのです。
イスラエルとパレスチナが、あるいは日本人と中国人と韓国人がお互いをどうステレオタイプ化しているか、などなど、コトバの面から観察すると、「なぜ議論が成り立たないか」についてのポイントが見えてくるかもしれませんね。