自由貿易の問題

TPPの議論が喧しい。多国間の自由貿易で国が栄える、ということで政府や経済団体がその協定の締結を急いでいるようだ。

確かに、貿易の自由化によって輸出機会が増えれば、輸出産業にとっては良いことであろう。安い商品が輸入されれば、消費者には多くのメリットがある。ということで、経済学ではリカードの昔から自由貿易の利益を効率性の観点から擁護している。しかし、この主張が成り立つためには、競争市場、という前提が必要となる。

経済学で言う「競争市場」が成り立つためには

1)独占、寡占などが無いこと、
2)十分な情報が人々に与えられていること

が必要になる(ほかにもいろいろ条件はあるが)。そして、これらの条件は現実には明らかに満たされていない。ということは、現実の市場は競争市場ではないのだから、貿易の自由化によって効率的になる保証などはどこにもないのである。 

このようなことを書くと次のように反対する人がいる。

反対意見その1)
大恐慌のときは需要が海外に流出することを恐れてブロック経済になり、景気が回復せずに、最終的には第2次世界大戦を引き起こしたではないか。ブロック経済が戦争を引き起こしたのである。だから自由貿易にしなければならない。

回答)あいたた、である。1929年の大恐慌以来、アメリカは不景気が続いた。しかし、アメリカの景気は戦争に突入したとたん、回復したのである。アメリカは戦争を始めることにより、ブロック経済から自由貿易になったのだろうか? そんなことはない。

では、景気が回復したのはなぜだろうか。単純な理由である。戦争によって需要が増え、景気が回復したのである。

これは何を意味するのか、というと、景気を良くするために、あるいは需要を増やすためには、自由貿易は必要ない、ということである。これは「戦争をしろ」という意味ではない。誤解のないように。戦争をするのと同じくらい政府が需要を増やせば、たちどころに景気は回復する、という意味である。

自由貿易などと言って、輸出を増やし、国内の産業、例えば農業などを潰せば、金持ちは増えるかもしれないが貧しい人も増える。所得が不平等になっていくのである。このような状況では国内需要は決して増えない。そして、需要の増えない国どうしで市場を開放しあっても、全体として需要は増えないのである。


反対意見その2)
第2次世界大戦後は、ブレトンウッズ体制によってブロック経済から自由貿易になり、世界は経済成長していったではないか。自由貿易こそが発展の原動力である。

回答)おいおい。じゃあ、なんで今は成長していないのよ? 

戦後の高度経済成長は、安価なエネルギー源としての石油と、新しい産業、石油化学工業などの発展、シュンペーターのいうところの新機軸によってもたらされたものである。そして、新機軸の効果が無くなったことから高成長が止まったのである(だからいまは、自由貿易が進展しているにもかかわらず、バブル以外ではほとんど成長していない)。


反対意見その3)
日本は資源が無いのだから、輸出によって経済を支えなければならない。貿易黒字が重要である。そのためにはTPP参加し、輸出を増やして景気回復さなければならない。

回答)大ウソである。

日本は先進国の中でも貿易依存度は低い。極端なことを言えば、輸出なぞしなくても、いままで貯めた外貨で当分の間(数十年は)貿易赤字が続こうと、国全体としては一向に困らないのである。もちろん、自動車やコピー機などの産業は困るであろうが、どのみち、これらの産業は衰退産業であるから、無くなっても国としては一向に困らない(経営者は困るだろうが)。日本が強い分野は、実は消費財産業ではなく、工作機械産業である。工作機械なぞは、貿易相手国が頭を下げて買いに来るのであるから、別に自由貿易でなくても困らないのである。


以上をまとめると次のようになる。

自由貿易にメリットがあるなら、今頃は世界中の国が先を争ってFTAなりTPPに参加しているだろう。しかし、そうではない、ということは、多くの問題がある、ということである。「自由」という語感に惑わされてはならない。政府がまず取り組むべきことは、自由貿易などという小手先の需要対策ではなく、「所得の不平等を無くする」とか「成長産業を育成する」とか「超大型財政政策」などの、まともは景気対策であろう。