ベネディクト・アンダーソン『比較の亡霊』(1998原著/2005)


海外で二世三世として成功した人間が
祖国でナショナリズムの活動をする人間たちに資金を提供する。
自分たちは「祖国」で暮らした経験もなく、
現在の「祖国」からは安全な異国で暮らしているにも関わらず。
この現象を「遠距離ナショナリズム」と名付けた
本書第一部第3章が圧巻だ。
ベネディクト・アンダーソン
『比較の亡霊—ナショナリズム・東南アジア・世界』を読む。


比較の亡霊―ナショナリズム・東南アジア・世界

比較の亡霊―ナショナリズム・東南アジア・世界


著者はナショナリズムを解読した『想像の共同体』で一世を風靡し、
日本でも多くの読者を獲得してきた学者だ。
その地に暮らし、フィールドワークを続けたインドネシア
フィリピン、タイでの研究が著者の思考の骨格となってきた。
(もっとも時のスハルト政権に睨まれ、
インドネシアからは追放、入国禁止になった)。


本書を読んでいるとASEANがなぜEUにならないか、
分かるように思える。
東南アジアと呼ばれる領域にはお互いが連帯するだけの
絆も利害関係も希薄なのだ。
第二次世界大戦後にこの領域の支配をもくろんだアメリカ帝国
この地を研究する学者を間接的に支援することになった。
資金が潤沢な分野には学者も群がるのだ。



 (ベネディクト・アンダーソン。Wikipediaより引用)


その中でアンダーソンが異彩を放つのは、
どこかこの地に取り憑かれた気配がするからだ。
打算だけでなく執着を伴わなければ開拓できない研究領域が
アンダーソンにはきっとあるのだろう。
事実、本書には本文と同じくらいの量の注釈が
小さな活字でビッシリ付けられている。


民族とナショナリズム

民族とナショナリズム


本書は同志社講座・佐藤優講師
ナショナリズムと国家2」の教科書の一冊。
アーネスト・ゲルナーベネディクト・アンダーソンの相互批判、
トランス・クリティークを通じて
ナショナリズムと国家の解読に5ヶ月間クラス全員で挑んだ。
古書価格が理不尽なまでに高騰しているので
図書館で借りて読むことを薦める。


The Spectre of Comparisons: Nationalism, Southeast Asia, and the World

The Spectre of Comparisons: Nationalism, Southeast Asia, and the World


 (英語原書ペーパーバックなら4,000円程度で入手可能。
  Amazon.comなら$12少々だが送料が別途かかる)


wikipedia: ベネディクト・アンダーソン
wikipedia:en: Benedict Anderson


(文中敬称略)