息継ぎもせず、活字の海を〜遊泳編〜

さて、全3回にわけてお送りしているホンズキモドキ目ホンズキモドキ科ホンズキモドキ属による「この本いいよね」のコーナー。
第2回となった今回は「面白かったわぁ」という素敵な読後感を得た本たちを紹介するのだ。へけ。くしくし。公太郎。






まずはこちらにゃ。
乙一「夏と花火と私の死体」「失はれる物語」

夏と花火と私の死体 (集英社文庫)

夏と花火と私の死体 (集英社文庫)

失はれる物語

失はれる物語

僕の知りうる限り、ライトノベル作家としてデビューしてライトじゃないノベルのジャンルにも大々的に進出した作家さんの一人目、乙一さんの2冊。
「夏と花火と私の死体」は死体が主人公という、この言い方だと誤解を与えまくりの気がしますが、つまるところ本当にそうなのだから仕方がない。
死体とは言っても、ゾンビが主人公とか、そういう意味ではございません。語り部が「死体」なのです。
殺された主人公の目線で進んでいく物語。どこかにありそうな田舎が舞台。でも語り部は死体。あ゛ーう゛ー。
「失はれる物語」は短編集です。乙一さんには珍しく?ホラー要素少なめ。
死体目線の物語もそうですが、経験し得ない情景を経験したかのようなその筆致が、おそらく記憶に残る理由でしょう。
全身不随になり、感じられるのは触覚のみ。そんな人物の目線なんて、どんな想像すれば書けるのか、土下座してでも聞いてみたい。


お次はこちらだわん。
恩田陸「光の帝国」「蒲公英草紙」

光の帝国 常野物語 (集英社文庫)

光の帝国 常野物語 (集英社文庫)

蒲公英草紙 常野物語 (集英社文庫)

蒲公英草紙 常野物語 (集英社文庫)

不可思議な力を持ちながらも、それを隠し、ひっそりと社会に溶け込んで生きている一族「常野」。
上記の2冊は「常野物語」と銘打った、常野一族と呼ばれる人々の物語が詰まった本です。はい、特殊能力とか大好きです。
時代に翻弄されながらも静かに生きていく、様々な時代、様々な常野一族。特異な能力を持つ者の苦悩とか、アメコミのそういう部分が好きならまず間違いないと思います。
いや、アメコミ的要素は特にないんですけども。
設定は非現実的でも、筆致はけしてそこに頼っているわけじゃない。
能力はあくまで舞台装置。大事なのは読むのが面白いか田舎。
そう、この「蒲公英草紙」の舞台は田舎です(酷いまとめ方の例)
遠野物語」が好きな方なら、より面白く読めるかもしれません。


するすると先に行くぶひ。
虚淵玄「アイゼンフリューゲル」

アイゼンフリューゲル (ガガガ文庫)

アイゼンフリューゲル (ガガガ文庫)

「さすがUROBUCHIッ!俺たちに出来ないことを平然とやってのける!そこにシビれる!憧れるッ!」
でお馴染み(?)、希代のバッドエンドメイカー、虚淵玄さんの物語。でもこの「アイゼンフリューゲル」は虚淵玄著作の中では比較的後味のいい読後感であります。個人的にはとても良い終わり方であると思います。
絶対的な空の支配者たる竜と、己の知恵の結晶、飛行機で空を駆ける人。そこに忍び寄る軍靴の音と、早きに過ぎる科学の歩調。
「空」を巡る男たちの男たちによる男たちのための男臭い物語。それがアイゼンフリューゲルだ!
飛行機が好き?竜が好き?男の熱い友情が好き?だったら読め!それがアイゼンフリューゲルだ!もうだめだ!


なんかもう、偏りまくりヒヒン。
古橋秀之ブラックロッド

ブラックロッド (電撃文庫)

ブラックロッド (電撃文庫)

見たこともない乗り物に「これはジェットコースターです」と聞かされないまま乗らされた場合、体感する恐怖は遊園地でジェットコースターに乗ったときよりも恐くなる気がしませんか。
この「ブラックロッド」はのっけから読む人を置いてけぼりでフルスロットルです。ようやく追いついたと思ったら息つく暇もなく更なる加速をしてくれやがります。
ちなみに、三部作?の一作目。このあと「ブラッドジャケット」「ブライトライツ・ホーリーランド」と続きます。
さながらファミコンのゲームよろしく、その世界にぶっ込まれたが最後、丁寧な説明など女々しいぜと言わんばかりの情報の濁流が押し寄せ、何がなんだかわからないままもみくちゃにされ、
気付いたときには「オモシロイ、コレ、オモシロイ」と白目をむいたままうわごとを呟いているような本です。
・・・説明が雑なんじゃないですよ。
前述したアイゼンフリューゲルとこれは、なんかもう、どこを切り取ってもその魅力を伝えきれないので、こんな説明になっているんです。
設定、世界観、文体、人物、何をとっても、どれをとってもドストライク。故に進めたいけど言葉にならない。
とりあえず興味が沸いたら読んでみてヨ。い〜ま〜はこれがせ〜ぇいっぱぁ〜い。(某三世風)


ブーーーーーーーーーーーーーン。
夢野久作ドグラ・マグラ

ドグラ・マグラ (上) (角川文庫)

ドグラ・マグラ (上) (角川文庫)

言わずとも知っている人には知れた、日本三大奇書の一つ。
いや、はじめに断っておきますと、物語として純粋に「面白かったわぁ」とはちょっと違うんですよ。
でも、なんていうか、こう、「小説って色々あるんだなぁ」とか、そういう意味で「面白かったわぁ」なんですけど・・・。
だめだ。色んな自信がなくなってきた・・・。
内容としては、ちょっと前にやっていた映画「シャッターアイランド」に近い、と言えば伝わりやすいかも知れません。
ここで紹介しようと思った本の中では一番の変化球です。ちうか他の本が直球すぎるだけなんですがね。てへぺろ
何が真実なのかもわからない主人公が、異世界のような閉鎖した世界を舞台として真実に辿り着こうとする推理物です。たぶん。
人間が持つネガティブとされている面にスポットライトをガンガンにあてております。
表紙からして手に取りづらい装丁をしているのは、中身の不道徳さ(言い過ぎ)に絶えられないマジメヒューマンをハナから除外するための仕様であると、個人的には邪推しております。
そんなわけで、ドグラ・マグラは「面白いから読んでみてよ!」というより「読んでみると面白いよ!」という本です。
本物の本好きかもしれないあなたたちの中で、変わった本が読みたい方にはお勧めしたいと思います。
ちなみに、この本の売り文句のひとつに「読むと精神に異常をきたす」というものがあります。
どんだけ門前払いしてんのよ。






改めて見ると本当に統一感がない。ほとんど行き当たりばったりで読んでるじゃなイカ
まさか、本を読むのが好きなんじゃなくて、本を読んでいる自分が好きなのか・・・!?
と、恐ろしい想像が脳裏をよぎったところで、次回に続く。そう、まだやるのさ。


次回、『息継編』