「後深草院二条の和歌と自己表現——『とはずがたり』にみる女性の生き方」 宗像多紀理 『とはずがたり』は、後深草院二条によって記された自伝的物語であり、鎌倉時代の宮廷文化や女性の生き方を知る上で極めて貴重な資料である。本作は、単なる個人の回想録にとどまらず、一人の女性が数奇な運命の中でいかに自己を確立し、和歌を通じて情感を表現していったかを明らかにする。 後深草院二条の生き様を語る際、まず注目すべきは、女性としての自己意識と文学的表現にある。宮廷に仕えながらも、単なる女房としての役割にとどまらず、自らの感情を和歌として詠み、それによって自己の存在を確立しようとした。後深草院の寵愛を受ける一方で、…