ミステリ作家、小説家。
1933年4月22日生まれ。日本大学芸術学部中退。放送ライターを経て、1970年「ニジンスキーの手」により小説現代新人賞受賞。
1974年、長篇「オイディプスの刃」で第一回角川小説賞を受賞。1983年、「海峡」「八雲が殺した」で泉鏡花文学賞を受賞。
芸能や伝統工芸の世界を描くことが多く、耽美的な作風で知られる。
2012年6月8日、心不全により死去。
第27話 小説家 1974年5月19日 日曜 4月22日に誕生日を迎え、25歳の中学2年生になった僕は、唐戸桟橋のある街までバスに揺られていた。唐戸には市庁舎があるから、人の往来が多くバス路線の分岐点になっている。桟橋からは、対岸の門司港まで連絡船が頻繁に行き交う。 バスの車窓から見る、みずみずしい若葉は、道沿いの街路樹をつややかに魅せる。 遠くの山々では、たくさんの草木が芽吹く。青空に向かって萌え立つ様子は、初夏ならではの風景で、何か良いことが起こる予感さえ抱かせてくれる。 唐戸停留所で降りると、バスを乗り換えることになる。その前に、停留所そばにある“旧英国領事館”を見ておきたかった。それは…
★ 沢田安史さんが、赤江瀑・夢野久作『あやかしの鼓』を刊行されました。11月20日(日)文学フリマ東京 第一展示場 T-26 銀月亭 にて発売されます。 ・沢田安史 編 赤江瀑・夢野久作『 あやかしの鼓』、銀月亭、2022年11月20日発行、1,500円、232ページ ※書肆盛林堂のHPでも、販売されています。 seirindousyobou.cart.fc2.com ※文学フリマのブース情報も、ご覧下さい。 c.bunfree.net
■1週間が早すぎる。 ■気が向いたときにパンを買い、パン祭りのシールを集めている。折り返しの15点まで集まった。月に一度もパンを買わないときもあるのになかなかのペースである。ただし30点集まったとしてももらえる皿は1枚。2人暮らしで皿1枚増えたとて使い道などない。かといって今からペースを上げてもう1皿分のポイントを集めるには遅い。時間もお金もかかる。腹は膨れて嬉しい。そもそも皿をしまう場所がない。ただでさえ使っていない皿があって処分したいのに夫に止められているのだ。同じ柄の皿がサイズ違いで8枚もあるが絶対同時に使うことはない。捨てさせてくれ。パン自体は好きなので(とくに薄皮パンの惣菜系)買うの…
「海の中の探偵に問う、少年の屍(し)が桜貝に変じた謎を」 *森島章人歌集、『月光の揚力』収中、この一首より創を得たことを附記します。 とは、拙「作品集成 I」所収、「櫻色手帖」の最後の一行と、それの注釈です。 この歌を詠んだ、歌人、森島章人さんには、拙著「夕化粧」に帯文を書いていただいたのですが、その馴れ初めが、どうにも、思い出せません。 第一歌集、『月光の揚力』を買い、巻末に付された住所に、手紙を宛てたのか、はたまた、私宛に歌集をご恵投いただいたのか、そのかみの、イギリス人教師「セシル・ブロック」のごとく、 すべては、ブロックの夢想を促す、「青春の生国(しょうごく)」での出来事 のようでもあ…
鏡花文学賞とは 「泉鏡花文学賞」と「泉鏡花記念金沢市民文学賞」の2つの賞からなります。 鏡花文学賞条例 第1条より 幾多の文学者を輩出した本市の文化的伝統の継承発展を図り、市民の文化水準の向上に資するため、すぐれた文芸作品に対し、鏡花文学賞を贈与するを目的とする。 泉鏡花文学賞とは 金沢市が主催する文学賞 全国規模の地方自治体主催の文学賞としては、全国に先駆けて昭和48年に制定された文学賞 昭和48年5月 泉鏡花文学賞制定趣意書より 金沢に生まれ、近代日本の文芸に偉大な貢献をなした泉鏡花の功績をたたえ、あわせて鏡花文学を育んだ金沢の風土と伝統を広く人々に認識していただき、文芸を通じ豊かな地域文…
2023年の読書メーター読んだ本の数:54読んだページ数:14409アンと愛情の感想シリーズ3作目。 変わらず和菓子が食べたくなる。 杏子ちゃんの表現が食欲を刺激するから。 和菓子についての知識も教えてもらえるのも嬉しい。読了日:01月08日 著者:坂木司言葉の園のお菓子番 森に行く夢 (だいわ文庫)読了日:01月10日 著者:ほしお さなえショートケーキ。の感想ショートケーキが出てくる短編連作集。 それぞれの短編の人物が繋がっているのが楽しい。 同じ場面を違う人物の視点から見るのも。 『ショートケーキ』『追いイチゴ』が好きかな。 追いイチゴはしてみたい。読了日:01月11日 著者:坂木 司タ…
二人の世界では「無銭優雅」でも、はたからみれば「呑気な貧乏人」なんだろうか(いや、そんなこともないと思う!)読みながら気持ちが右往左往する、刹那を生きるキリギリスな恋物語だった。 そしてもう、これはわたしの人生か?と思うほどに、中年に差しかかる自分にリンクした小説だった。 無銭優雅 (幻冬舎文庫) 作者:山田 詠美 幻冬舎 Amazon 花屋で働く時雨(じう)と塾講師の栄はともに40代。「心中する前日のつもりで恋をしてみないか」がテーマの、二人の恋の日常が綴られている。 日常に寄り添う恋愛小説の引用たち 舞台は西荻・吉祥寺の狭い界隈 大人のイタい恋…いや、恋したら大概こんなもんだった 「心中す…
赤江瀑さんの「花夜叉殺し・罪喰い・獣林寺妖変」読みました。 罪喰い (講談社文庫 あ 5-1) 作者:赤江 瀑 講談社 Amazon 山尾悠子さんの「迷宮遊覧飛行」の中に、 supiritasu.hatenablog.com 赤江作品のベスト5として、1「花夜叉殺し」、2「花曝れ首」、3「禽獣の門」、4「夜の藤十郎」、5 「罪喰い」または「春葬祭」または「阿修羅花伝」 と書かれていまして、私が図書館で借りてきた小学館のP+D BOOKSの「罪喰い」に今回タイトルの3作品収録されています。 1位の「花夜叉殺し」を読みたかった。というわけです。 赤江さん直木賞は受賞していませんが、「罪喰い」は19…
もう夏は終わっていくね。 暑さを感じなくなるだけでもよいのよ。 十二宮の夜赤江瀑 講談社 1984年12月 楽天ブックスで探す Amazonで探す hontoで探す 紀伊國屋書店で探す 図書館で探す by ヨメレバ 人の思いが渦巻いたり… 感想 おわりに 終 人の思いが渦巻いたり… 不思議な作品だな、と感じました。 時に明らかに何らかの「存在」らしきものが 絡むのもあります。 それは悪意だったりもするのです。 それと断ち切れぬ思いだったりも… 基本的にあまり救いがない 作品ばかりかもしれませんね。 感想 この中にね、理不尽な悪意というものが ある作品が存在します。 その作品を読んで強く感じたの…
最終47話 汽笛 1975年3月20日 木曜 遠くで走る列車の汽笛が聞こえてきた。 ベッドから起き上がって机の置時計を見ると、午前4時21分だった。 最近は蒸気機関車を見る機会がずいぶん減ったと思う。 国鉄は「無煙化」を進めているから、『DD51形』(※注42)などのディーゼル機関車に置き換わっている。 漁業が盛んな山陰本線の北浦地区からは、漁師の妻たちが毎朝列車に乗って、下関駅まで出かけていた。列車の中では、カニ・イカなど海産物を入れた籠やバケツを持って、乗客に声をかけながら販売する。早朝にもかかわらず、列車の中は活気に満ちていて、その光景は、山陰本線の名物と呼ばれている。 勉強部屋の照明を…
第44話 船上決戦 1975年1月26日 日曜 愛原さんからボトルを渡された津々木捜査官は、この小さなボトルを右手に持ってフタを回した。中身をこぼさないように注意しながら、ボトルを鼻の近くに持っていった。彼は鼻で深く息を吸って、香りの特徴を感じ取ろうとする。息をゆっくり吐き出して、容器のフタを閉めると、メモを取り始めた。 「んだな。かなり制御物質に近づいでるんだな。でも甘い香りが少し足りねぇようだぞ。もうちょっとアンバを足してみでけれ」 「そうだね。僕も津々木くんの意見に賛成だよ。やはり、甘くほのかに漂う香りが決め手のようだからね。僕はこの香りが秘めているエネルギーを感じ始めているよ。波動療法…
第41話 月面着陸 1974年12月22日 日曜 赤江瀑先生の、2回目実習に参加するために、朝早くからバスに乗っていた。ただし、前回と違っているのは、今日は梅野くんと僕の2人だということ。 昨日の土曜は、水産大学の“海洋学教室”を聴講して、1時間のランチミーティングを過ごした。その後、取り計らって頂いた越川教授に、口々にお礼を言うとキャンパスを後にした・・・・・・ 「0.5グラム、そのわずかな量を分けて頂けないでしょうか?」食事を取りながらの質疑応答の時、愛原さんは教授に大胆なお願いをした。僕たちはお互い顔を見合わせた後、教授がどのように反応されるのか注目した。愛原さんは 『言うべきではなかっ…
今週のお題「上半期ベスト◯◯」 とかく積んでいる時間が長いため、読む頃にはわりと話題が去っていることも多いのですが、諦めずに読んでいます。 はりきって振り返ってみたが、そもそもあんまり読んでないな……。 ■読んでいない本について堂々と語る方法 ハウツー本みたいなタイトルですが、だいぶ違います。 読んでもすぐ忘れてしまう、自分流に読んでいる、なんなら記憶が捏造されている、なんてことはザラにある私にとって、最後のページにたどり着くことが、ある本を「読んだ」ことになるのか、はかなり怪しいと思っていました。 この本によると、そこは別にいいやん、というか当然やん、ということです。 一昔前に比べれば、本を…
【本格ファンタジー100選】 自分の頭の中で思い付いた「本格ファンタジー」を100作、何等の整理もせずに掲げています。ただ、「本格ファンタジー」に関する議論はあるものの、自分が考える「本格ファンタジー」の事例を羅列する人は少ないようなので、とりあえず、サンプルとしてやってみたいと思います。 1:泉鏡花『天守物語』 2:倉橋由美子「アポロンの首」 3:山尾悠子『ラピスラズリ』 4:井上雅彦「デザート公」 5:恒川光太郎「夜市」 6:小林泰三『アリス殺し』 7:ルイス・キャロル『不思議の国のアリス』 8:レオ・ペルッツ『夜毎に石の橋の下で』 9:ロード・ダンセイニ『ペガーナの神々』 10:イタロ・…
『愛の怪談 現代ホラー傑作選第7集』 高橋克彦(編)/1999年/273ページ 歪んだ愛がこの世に産み落とした恐怖――。怪奇と幻想に潜む人間の“愛”に光を当てた異色のホラー傑作選。三橋一夫「駒形通り」香山滋「木乃伊の恋」城昌幸「道化役」梶尾真治「玲子の箱宇宙」澁澤龍彦「ダイダロス」赤江瀑「金襴抄」都築道夫「はだか川心中」式貴士「われても末に」戸川昌子「ウルフなんか怖くない」高橋克彦「妻を愛す」 (裏表紙解説文より) 「現代ホラー傑作選」最後の1冊。上記の解説には「歪んだ愛が~」云々と書かれているが、恋愛ホラーと聞いて連想するようなサイコホラーは本書にはほとんど収録されていない。いずれも歪んだ愛…
第37話 犯人の匂い 1974年12月6日 金曜 正門への坂道を上がる生徒達の中には、厚手のビニール袋を手にして、登校する姿が見える。道のあちこちで、レコードを聴いた感想を熱く語る光景は、今ではごく自然な風景になっている。次々と発売される新譜のレコード盤は、思春期の多感な少年少女たちに、刺激を与えてやまない。この頃、特に話題を集めるのは、サディスティック・ミカ・バンドのアルバム、『黒船』だった。シングルカットされた 『タイムマシンにお願い』 ※注20が大人気で、教室はミカ・バンドの話題で持ちきりだ。 先月のこと、僕は初めてと言ってもよい時間旅行を経験した。赤江瀑先生は、タイムマシンに僕を乗せる…
第36話 再会 1974年11月10日 日曜 気が付けば、車窓から見る道沿いの街路樹が色づきを見せていた。そして山の色彩も秋色に染まる準備を始めているようだ。これから秋が徐々に深まりを見せると、青空と紅葉のコントラストは、美しい風景画にとって大切な要素となる。 僕は赤江瀑(あかえばく)先生に再び会うために、唐戸桟橋前の停留所までバスに揺られていた。停留所で降りると、バスを乗り換えるまで桟橋の先を眺めた。海峡を挟んだ対岸の門司港と和布刈(めかり)神社が、澄んだ冷ややかな空気を通して鮮明な姿を見せていた。思い起こせば、先生に初めてお目に掛かったのは、薫風(くんぷう)香る萌え立つ若葉の頃だった。それ…