文芸評論家、法政大学国際文化学部教授。1951年北海道網走市生まれ。近年は日本の旧植民地下文学についての編著書多数。
法政大学卒。韓国・東亜大学助教授を経て母校で教鞭をとる。「異様なるものをめぐって―徒然草論」で群像新人賞、『南洋・樺太の日本文学』で平林たい子賞、『補陀落(ふだらく)―観音信仰への旅』で伊藤整文学賞受賞。著書多数。現在、野間文芸新人賞、木山捷平文学賞などの選考委員。
『季刊文科』89号、昨年秋号の特集「旅×文学」のメイン対談。神社だの離島だの温泉だのを巡って、旅から旅を続けてきた老文人お二人が、これまでに行った先の思い出を語り合い、文学とのかかわりを語り合う。つまり神話や歴史を語り合っている。 とんでもなく暢気といえば暢気、だが読みようによっては深刻にして喫緊の話題満載である。ともあれ年季がものを云う、老文人ならではの対談だ。 あの湯は好かった、そこへは俺も行った、あの人に逢った、面白かった、基本はさように気楽な噺なのだが、連想や脱線や例えばなしの端ばしに、お二人の文学的来歴がちょいちょい顔を出す。そこは気楽では済まない。 たとえば佐藤さんによれば、明治期…
『季刊文科』89号(2022.8) 〈旅×文学〉という特集が立てられて、川村湊さんと佐藤洋二郎さんの対談が、心柱となる一番のご馳走だが、筆者なん名かによるお題に沿った随筆が寄せられている。小説家の佐川光晴さんが、書いておられる。 半生を振返りながら、「ニ十歳前後のひとり旅では、どんな土地の、どんなひとたちに立ちまじっても、おおよそ場にかなう行動がとれるようになること」こそが肝要と説き起され、「十八歳で茅ケ崎の団地を離れてからの私は今もなお旅の途上にある」と感慨を催されて、「人の成長にとって、旅=移動は不可欠である」と結ばれる。編集部からのご出題に、これほど正面切って応えた随筆も多くはあるまい。…
どーも。 活字離れと呼ばれて久しい昨今ですが、私も文字に触れる機会が激減し、昔は楽勝で書けていた漢字の書き取りがだいぶ怪しくなってきています😅 さて、好評の読書感想文のコーナー...ではなく、単に図書館で借りてきて読んだ本の紹介です。 ※全くオススメはしていません。私の嗜好・癖を知っていただけたら幸い。 新型コロナウイルス人災記 パンデミックの31日間 著者:川村 湊 1,600円 にほんブログ村 政府・国に反対的なサヨクを名乗る年金生活者で透析患者のおじいさんが書いた本です。 昨年2020年5月28日初版と、新型コロナウイルスによるパンデミック発生から比較的すぐに執筆されています。 昨年4月…
私小説家=正直な人? 日本文藝家協会編『新茶とアカシア』(光村図書出版、2001年)を、拾い読みしました。 本書はおかしなタイトルですが、2001年に発表されたエッセイの中から優れたものを日本文藝家協会が選りすぐったもの。著者は、阿川弘之、金重明、岩橋邦枝、高橋昌男、嵐山光三郎、古山高麗雄、坂上弘、庄野潤三、吉川潮、別役実、司修、高田宏、山崎正和、山本道子、小林恭二、松本健一、清水邦夫、佐伯一麦、大岡信、有吉玉青、又吉栄喜、原田康子、養老孟司、野田秀樹、三浦哲郎、水木しげる、川西政明、大庭みな子、石毛直道、中野孝次、リービ英雄、増田みず子、原研哉、阿部牧郎、古井由吉、なだいなだ、川村湊、林京子…
『落語家論/柳家小三治』『騙し絵の牙/塩田武士』『師匠。ご乱心/三遊亭円丈』『李朝残影/梶山季之』『77冊から読む科学と不確実な社会/海部宣男』『川柳を始める人のために/時実新子』6冊と『世界4月号』『前衛4月号』でした。2回に分けて書きます。 『落語家論/柳家小三治』 小三治が主に「民族芸能を守る会」の機関誌に書き続けた巻頭言をまとめた本です。この団体は今でもあるそうですが、HPの検索しても出てくるのは古いものです。落語や講談、歌舞伎、狂言など幅広くかかわってて、1965年ぐらいから本格的な活動をしているようで「共産党系」と書いてありますが、いい仕事をしています。 いつ頃書かれたものか、日付…
当ブログの「古書肆に出す」シリーズをお眼になさってくださったかたから、だいぶ片づいてきたでしょうと、お声掛けいただくことがある。おかげさまでと、いちおう応えてはいる。が、あくまでも挨拶であって、実情はどこが進展したのかという状況だ。 空間を圧縮して、身辺の店仕舞を加速させるためには、より核心部分に手を着けねばならない。 昭和十年代刊行の、古い小説たちだ。紙質も印刷も弱いので、ほとんどにグラシンを掛けてある。写真映りが悪く、背文字も表紙も判然としない。が、ここは保護優先だ。 すべて鶴田知也の著作である。昭和十一年に『コシャマイン記』で第三回芥川賞を受賞した。第二回が受賞作ナシだったから、第一回の…
◆2024年◆ ・文藝年鑑 ・[連載]大澤聡「快楽の諸相(下)――国家と批評《第35回》」(『群像』、講談社、●-●頁、2024年6月号) ・[エッセイ]大澤聡「出版の第二思春期?」(『図書』、岩波書店、11-15頁、第905号、2024年5月号) ・[連載]大澤聡「文芸時評《4月》――マッチング小説 理想との差分が招く欲望」(『毎日新聞』、毎日新聞社、夕刊文化面、2024年4月24日) ・[論考]大澤聡「ふたつの庭、あるいは碁」(『ゲンロン16』、ゲンロン、114-131頁、2024年4月5日) ・[書誌]大澤聡「『岩波月報』総目次(一九三八年一月号―七月号)」(『近代出版研究』、近代出版研…
◆執筆一覧【2016年】 ・[連載]大澤聡「アーカイブ[52]――人工知能問題はアーカイブ問題である。」(『出版ニュース』、出版ニュース社、17頁、2016年12月下旬号)・[連載]大澤聡「ネット社会時評[12月]――必要な情報が埋没する DeNAサイト問題」(共同通信、2016年12月20日配信) *全国各紙に順次掲載・[回答]大澤聡「2016年下半期読書アンケート」(『図書新聞』、図書新聞、第3284号、12面、2016年12月24日)・[鼎談]竹内洋+片山杜秀+大澤聡「教養主義の“没落”と出版の未来」(『中央公論』、中央公論新社、162-169頁、2017年1月号)・[コラム]大澤聡「《…
www.tokyo-np.co.jp サハラの水 正田昭作品集 作者:正田昭,川村湊 インパクト出版会 Amazon
2023/11/06発売予定『すばる12月号』に中篇小説「二匹の虎」が掲載されます。 掲載誌が届き、二匹の虎がじゃれ合う表紙に、おもわず涙ほろり。 空港から始まる一篇です。 近藤愛さんによるチャーミングな二匹の虎のイラストが、こちらにも🐅🐅♪ 作品にちなんだチャーミングなイラストに囲まれたタイトルと著者の名前を眺めながらあまりにも嬉しくて、夢じゃないといいのだけど、と夢心地に。これだけでもふわふわとしてしまうのに、なんと同号には、2004年に行われたアニー・エルノー氏と津島佑子さんの対談が再録されているのです。しかも司会・通訳を務めたのはアゴタ・クリストフ『文盲』の翻訳でもよく知られる堀茂樹さ…
8月17日 お盆も終わって、今日から仕事再開という人が多いようだ。エントランス前の鉄工所と足場屋さんも久しぶりに門が開いた。 昨日、一昨日は台風7号の影響で、新幹線はじめ交通機関が混乱。帰省先から戻るのに難儀をした人がたくさんいたようだ。 私たちの生活への影響は・・・。昨日の朝の散歩に少しだけ差し障りがあった。 雲は多いけれど安定した空模様に「涼しくていいね」などと話しながら、傘も持たずに境川河畔へ。途中から薄陽まで差し始め、いつもの大島桜の下で給水(この大島桜の下にはいつも穏やかな風が吹いている)。ところが見る見るうちに北の空に黒い雲が集結し始、南からの風が少し強くなる。折り返し点を過ぎたあ…
『君たちはどう生きるか』を観ました。この作品については、僕が何かを書く必要はないと思います。 ひとつだけ。いろいろな議論や考察を読んでもやっぱり、僕にとって今年一番インパクトがあった映画作品ということはなさそうです。じゃあそれは何かというと、映画館で見たものの中では… 『戦場のメリークリスマス』です。なので、その話をします。 このセクションには『戦場のメリークリスマス』のネタバレが含まれます。 『戦場のメリークリスマス』は、そのタイトルが示す通り、キリスト教の話です。今どき「メリークリスマス」でキリスト教を意識することなんてほとんどないと思いますが、「戦場」すなわち1940年代には「メリークリ…
原発と原爆---「核」の戦後精神史 (河出ブックス)作者:川村 湊河出書房新社Amazon■手塚昌明の『ゴジラ✕メガギラス G消滅作戦』でゴジラが教えてくれたとおり、人類は大きすぎるエネルギーを制御することはできない、あるいは制御しきれない大きなエネルギーは行使すべきではないというのが筆者の立場です。あの映画はもっと積極的に、正当に評価されるべきだと思います。 maricozy.hatenablog.jp■さて、以前から気になっていた本を読みました。河出ブックスはコンパクトなので一気に読んじゃいました。「「核」の戦後精神史」というサブタイトルがわかりやすいですね。ゴジラ、鉄腕アトム、AKIRA…
■2023年5月20日(土)、アートホテル旭川にて、第6回井上靖記念文化賞、吉増剛造先生、おめでとうございます!!!記念講演では井上靖の表現の「丹念さ」「清潔さ」「誠実さ」「綺麗さ」、「想起」(ギリシャ語でアナムネーシス」)を一番大切にされていたとのご指摘、柳田國男の「山の生活」の神隠し、魂が先祖還りする時刻、別の心に自分の心が入って行く「別宇宙」。その目を伴って鮮やかに描かれた晩年の傑作『孔子』の見事な絶妙な「距離」の取り方(「少し違う人から見た人の目」…年も離れた、雑用のようなことをしていた蔫薑の視点からの語り)、ウィリアム・バトラー・イェイツが驚愕した「甚だしいかな、わが衰えたるや。久し…
4、5日前の朝刊に懐かしい名前を見つけておっと思った。角川文庫の全5段新刊広告で、河林満の『渇水』が発売されるという。映画化原作をキャッチフレーズに、内容紹介のかわりに映画のスタッフ・キャスト、公開日などが記されていた。河林満の名前と『渇水』という書名は記憶にあった。単行本のたたずまいもおぼろげながら思い浮かべられそうで、あるいはかつて所有していたのかもしれない。ただ、読んだ記憶はなかった。 その日、出かけたついでに近くの書店に立ち寄り購入した。160頁の薄い文庫本で、帯に朱色で映画化原作と大きく書かれ、主演の生田斗真の横顔のスティル写真が添えられている。表題作のほかに2作収録されており、単行…