香港に着いたのは二十九日だったと思う。そこの傾斜地に建てられた住宅の夜間の光の美しさは有名である。船は段々日本海に近くなった。上海に寄航してから冬服に着替えたり荷物の整理をする。四十余日の航海も終り数日後には長崎に着くのだ。 船中では「さよならパーティー」の話や帰国後の予定を考えたり国へ安着の電報を打つ等で皆々多忙を極めている。この航海ではインド洋は相当荒れると聞いていたが毎日静かな平穏な航海で五十日近い船中の生活ではあったが、こんな楽しい別天地の様な生活なら何日でも乗っていたいと思った程である。大正十年二月十一日無事神戸へ入港、戸毎に翻る日章旗、今日は私の四十二回目の誕生日だ。同十六日名古屋…