北条静という人の所へ停雲に誘われてバイオリンを習いに通ったが半年許りでやめた。彼はその後一人で通っていた様だ。 学校では月に二、三回郊外写生の課目があるので、その日は思う儘、山野を跋渉し一日を郊外で過ごした。その服装といえば黒紋付の羽織袴で草履を履き写生帖を懐に矢立を腰に挟み竹の皮包みの弁当を持ち朝は早く宿を出て夜は星を戴いて疲れた足を引きづって帰ったものだ。 豊島停雲、島田海南、川畑春翠とは何時も一諸だった。この郊外写生はまる一日の行程で京都付近は隅から隅迄殆ど行かない所は無い程だった。 遠くは比叡山を越え近江の坂本に下り琵琶湖を廻っては八景を尋ね三井寺の晩鐘を聞き乍ら帰りを急ぐ事も、宇治や…