旅愁(上) (講談社文芸文庫) 作者:横光利一 講談社 Amazon パリの日本人 もう議論はやめて、恋愛小説としてのストーリーを早く展開させてくれと何度も思った。パリのカフェで矢代と久慈はうんざりするようなお決まりの議論をくりかえす。それでも読み進めることができたのは、ブローニュの森、ノートルダム大聖堂、モンマルトルの丘といったパリの名所を背景に往年のフランス映画(ヌーベルヴァーグより前の)のような場面に出くわすからだ。矢代と千鶴子はブローニュの森でどんどん茂みに入り込んで道に迷ってしまったり、チロル地方の氷河を渡り一夜を宿を求めたり、写真家である青年に付き合ってノートルダム大聖堂の屋上から…