明治二十年代は紅露逍鴎の時代。文学史研究の業界用語では、さようにおっしゃいます。尾崎紅葉、幸田露伴、坪内逍遥、森鴎外の四人が、文壇の中心人物として充実した仕事をなさった時代、という意味だそうで。 しかしその二十年代はまた、前回申しました浪漫主義青年たちが、いまだ頭角を現すにいたってはおりませぬものの、次なる時代に羽ばたくを期して勉学に励み、必死の試行錯誤を重ねていた時代でもございました。最たる実例が、雑誌『文學界』に集いました青年たちでごさいます。創刊は明治二十六年のことでございました。 一同の兄貴格で理論的先陣でもありましたのが北村透谷。やゝ年少の戸川秋骨、島崎藤村、平田禿木らがありました。…