佐古純一郎の文芸批評に注意深く耳を傾けていた時期がある。 早稲田だ三田だ赤門だといった文学青年街道を歩んだ人ではない。学生時代に亀井勝一郎の門を敲き師事した。海軍に応召し、対馬守備隊の通信兵として敗戦を迎える。戦後洗礼を受け、創元社や角川書店に勤務した。創元社と縁の深かった小林秀雄からも指導を受けたそうだ。退職後は文筆のかたわら大学講師生活を送り、母校二松学舎大学の教授にして学長をも歴任した。信仰者としては、牧師さんである。 鬼の首を獲って文芸ジャーナリズムを騒がせるような批評はしない。戦争体験者かつ信仰者として、おだやかな口調で根源を説く。著作や評論の表題に明瞭だ。「文学はこれでいいのか」「…