そのかみやいかがはありし 木綿襷《ゆふだすき》 心にかけて 忍ぶらんゆゑ 〜その昔 あなたと私の間が どうだったとおっしゃるのでしょうか。 木綿襷を心にかけて偲ぶと おっしゃるわけが分かりかねます。 【第10帖 賢木 さかき】 斎院のいられる加茂はここに近い所であったから 手紙を送った。 女房の中将あてのには、 『物思いがつのって、とうとう家を離れ、 こんな所に宿泊していますことも、 だれのためであるかとはだれもご存じのないことでしょう。』 などと恨みが述べてあった。 当の斎院には、 かけまくも 畏《かしこ》けれども そのかみの 秋思ほゆる 木綿襷《ゆふだすき》かな 昔を今にしたいと思いまして…