「そらあんなことを言っている。 くれなゐの 涙に深き 袖の色を 浅緑とや いひしをるべき 恥ずかしくてならない」 と言うと、 いろいろに 身のうきほどの 知らるるは いかに染めける 中の衣ぞ と雲井の雁が言ったか言わぬに、 もう大臣が家の中にはいって来たので、 そのまま雲井の雁は立ち上がった。 取り残された見苦しさも恥ずかしくて、 悲しみに胸をふさがらせながら、 若君は自身の居間へはいって、 そこで寝つこうとしていた。 三台ほどの車に分乗して姫君の一行は 邸《やしき》をそっと出て行くらしい物音を聞くのも 若君にはつらく悲しかったから、 宮のお居間から、来るようにと、 女房を迎えにおよこしになっ…