独居自炊暮しといっても、年がら年じゅう、似たようなものを食っている。たゞし「似たようなもの」ではあるが、「同じもの」ではない。 私にとって年に一度のゼイタク品とか、わが日常からは想像もつかぬ美味いものと申せば、知友や親戚からのいたゞきもののことである。知る人ぞ知る、地方の老舗名品もあれば、産地直送品も、お手づから生産の野菜もある。なるほどなぁと眼を丸くしながら、ありがたくいたゞく。これ以上のものはない。というか、私には無きも同然だ。必要がない。 絶品の酒を飲ませてやるだの、今東京ではあそこの寿司が一番美味いだの、あの店の肉を食ったら余所では食えなくなるだのといって、声をかけてくださる知人もない…