アイリス・マードックの第三作目の長篇小説『砂の城』(1957年、日本語訳・栗原行雄、集英社文庫、1978年)を読んだ。中年の学校教師、ビル・モアが主人公で、彼の家族、教師仲間、前校長の肖像画を依頼された女性画家が主な登場人物。実験小説風な第一作『網のなか』、第二作『魅惑者から逃れて』とは作風がガラリと変わり、リアリズムに徹した書き方だ。登場人物も少なく、また登場人物相互の関係も非常にシンプル。ロンドン近郊にある学校という閉ざされた空間を舞台に、ビルと若い女性画家レイン・カーターの恋が描かれる。<砂の城(The Sandcastle)>というタイトルは男女関係のもろさを象徴したものだろう。 学校…