「禿頭予防・最先端の毛生え治療」――。 斯くも胡乱な看板に、倉知鉄吉ともあろう男がまんまと引っかかったのは、若さと、そこがドイツだったからだろう。 (ライン河畔の眺め) 当時倉知は二十八歳。ドイツの日本公使館に二等書記官の身分で属し、キャリアを積み重ねている最中。カルテといえばドイツ語という先入主がある通り、日本にとって近代医学の卸元はドイツである。 つまりは「本家」。神々しいその雰囲気に、東京帝大法科大学英法科卒の、この超エリートですら幻惑された。現実にはドイツの医者にもピンからキリまで、名医もヤブもごく当たり前に居るというのに。 (Wikipediaより、外務官僚時代の倉知鉄吉) 果たして…