自身の正義を信じた男 今回の主人公はアメリカで開発中だった核兵器の情報をソ連に流し、ある意味で現代史に極めて大きな影響を与えたスパイ科学者の物語。 クラウス・フックス その男はクラウス・フックス。彼は1911年、ドイツのフランクフルト近郊の牧師の家で生まれた。父は貧しい人びとの解放を訴える政治的な人物であり、子供たちにも自身の良心に従って生きるよう(それがたとえ父の意志に反しても)に教育した。フックスは学問の才を示して、1930年にはライプチヒ大学に入学して物理と数学を専攻する。 当時は世界恐慌の最中、真面目で頑固なフックスは平等な社会を目指すという共産主義の理念に共感、20才の時に共産党員と…