ブツがあってもそいつを運ぶアシがない。 伝家の宝刀、親方日の丸「政府御用」の大旆をこれみよがしに振るってみても、今度ばかりは効果が薄い。それほどまでに国内の海上輸送能力は全力稼働しきっていたようである。 事は大正五年の話、大戦景気に湧く日本に、同盟国たる大英帝国政府から思いもかけない要請が来た。 石炭の大口注文である。 ──何かの間違いではないか。 耳を疑い狼狽える担当官の有り様が眼前に髣髴たるようだ。 イギリスと言えば世界に名だたる産炭国ではなかったか。ご自慢のウェールズ炭はどうした。こんな地の涯て惑星(ほし)の裏側、極東からまで遥々と、燃料資源の調達に齷齪せねばならぬとは、連合国の窮迫はそ…