もはや開戦秒読みの時期。 再三の撤兵要求を悉く無視し撥ねつけて、帝政ロシアが持てる力と欲望を極東地域に集中しつつあったころ。 スラヴ民族の本能的な南下運動を阻まんと、大和民族が乾坤一擲、狂い博奕の大勝負に挑まんとしていたあの時分、すなわち明治三十七年、日露戦争開戦間際。 『報知新聞』に投書があった。 送り手は、玄界灘の一島嶼、対馬に住まう老人である。 (『Ghost of Tsushima』より) (ははあ) 担当記者は内心密かに、 (来るべきものがついに来たか) と頷いた。 中世期、元寇という日本史上稀にみる本格的な対外戦争を経験した土地だけに、およそこの種の騒ぎには敏感たらざるを得ないのだ…