遥か昔の貴族の時代、モンドの広場には高い塔が立っていた。名目上は風神バルバトスを祀るため建てられたもの。だが実際は、貴族たちが自らの権力を誇示する象徴であった。あの暗黒時代、平民は貴族に搾取され続け、喜びを享受できたのはバドルドー祭の限られたひと時だけ。 ある年のバドルドー祭で、高い塔の上に異国の美しい少女が立った。彼女の名前はイネス、遠方の遊牧民であり流浪の歌手であった。またたく間に、貴族も奴隷も、老人も子供も、広場にいたすべての人が彼女の美しさに惹かれた。彼女がバドルドーを投げる姿を誰もが見たかった、異国の少女の歌声を聞きたかった。 「バルバトスの祝福はみんなのものです、こんな日に悲しい顔…