銭湯からの帰り道には、ことに寒い季節には、愉しみがひとつある。 元来ココアというのは、好きな飲料だ。けれども日々の暮しで頻繁に口にしてはいない。のべつ喫茶店に入り浸った若き時代、ココアは珈琲や紅茶やミルクよりも若干高価なメニューだった。十円でも節約したい生活事情のもとでは、優先順位の低い贅沢品だった。その時代の習性が、癖として今に残ってあるらしい。 加えて、東西南北を井桁のごとくに走る道路に囲われた拙宅ブロック(つまり同番地の号違い)周辺に設置された八台の飲料自販機には、ココアが搭載されてない。ビッグエーには、圧倒的に廉価の珈琲も紅茶もふんだんにある。ついついココアは敬遠される。 ところが隣町…