【古文】 思へどもなほ飽かざりし夕顔の露に後れし心地を、 年月経れど、思し忘れず、 ここもかしこも、うちとけぬ限りの、 気色ばみ心深きかたの御いどましさに、 け近くうちとけたりしあはれに、 似るものなう恋しく思ほえたまふ。 いかで、ことことしきおぼえはなく、 いとらうたげならむ人の、 つつましきことなからむ、見つけてしがなと、 こりずまに思しわたれば、 すこしゆゑづきて聞こゆるわたりは、 御耳とどめたまはぬ隈なきに、 さてもやと、 思し寄るばかりのけはひあるあたりにこそ、 一行をもほのめかしたまふめるに、 なびききこえずもて離れたるは、 をさをさあるまじきぞ、いと目馴れたるや。 つれなう心強き…