一年だけ東京都民だった。それは二十三区ではなく世田谷区の西隣、狛江市だった。大学に通うためだった。小田急線を使い下北沢で井の頭線に乗り渋谷に出るか、代々木上原で千代田線に乗りかえて表参道に出るかだった。小田急線は世田谷区を東西に切るように走っている。祖師ヶ谷大蔵、経堂、豪徳寺、梅ケ丘などどれも住みやすそうな町が続いた。友人の住む下北沢は中でも若かった自分には刺激的だった。「いつか世田谷区の住人になりたいな」、そんな夢をその頃抱いた。 実際の世田谷区は意外に細い道や一方通行が多い。小田急線の北側から京王線の南側、世田谷線の東側、環七の西側に囲まれたエリアは特に顕著だろう。そんな路地を彷徨っていた…