「なんだ、おい、くそ、ふざけんじゃねえ、馬鹿野郎――」 結城銀五郎は顔じゅうを口にして叫ばずにはいられなかった。 こんなことがあっていいのか。 水道水にヒルが混ざり込んでいたのだ。 それも一匹や二匹ではない。 ぼたぼた、ぼたぼた――開いた栓からひっきりなしに、このいやらしい体色の環形動物がまろび出て来る。 (Wikipediaより、ヒル) その数、実に二十三匹。トラウマになりそうな光景だ。動顛するのも無理はない。明治三十四年五月二十三日午前、東京市京橋区木挽町一丁目に巻き起こった椿事であった。 「どうしたどうした、なんの騒ぎだ」 声をききつけ、家人どころか隣人までもがやってきた。 「なんのもヘ…