日本人の幸福は、その国内に異人種の存在しないことである。 維新このかた一世紀、外遊を試みた人々が、口を揃えて喋ったことだ。 鶴見祐輔、小林一三、煙山専太郎あたり――「有名どころ」の紀行文を捲ってみても、その(・・)一点に限っては同じ感慨を共有している。 (小林一三、晩年の姿) 外に出てみて初めて理解(わか)るありがたみ。――「ヨーロッパに参りますと、同じく財産を沢山持って居り、又社交上の位置も殆ど同じであっても、人種の異(ちが)ふ為に或者と交らぬとか、或者の言葉は信用せぬとかいふ傾が大分あるやうであります。之は諸国を廻るにつけて何処の国でも私の感じた一つの点であります」とは、明治の末ごろ、中島…