人間、一生涯に一度ぐらいは自分の故郷を旅人の眼で観るべきだ。 いつも通る道沿いの、風景に過ぎなかったホテルに泊まり、ガイドブックでも片手にしつつじっくり歩いてみるがいい。 きっと新しい発見がある。そう嘯いたやつがいた。 正月、初詣を済ませるなり雲隠れして、近所のホテルの一室に引き籠るのを癖としていた人物である。 つまりは小泉信三だ。なんともはや彼らしい、ある種独特の提案だろう。 それと似たようなことをした。ひところ前のお彼岸に、ちょっと山梨に帰省(かえ)ったのである。で、色々と地元の景勝を味わってきた。 たとえばこれは忍野八海。富士の山麓、雪解け水の湧くところ。 淵の碧さは背筋に寒気が走るばか…