九重《ここのへ》に霧や隔つる雲の上の 月をはるかに思ひやるかな 院との思い出がお心に浮かび 源氏の君へ 命婦に伝えさせた歌 by 藤壺の中宮🪷 〜宮中には霧が幾重にもかかっているのでしょうか。 雲の上で見えない月を はるかにお思い申し上げますことよ。 【第10帖 賢木 さかき】 「ただ今まで御前におりまして、 こちらへ上がりますことが深更になりました」 と源氏は中宮に挨拶《あいさつ》をした。 明るい月夜になった御所の庭を 中宮はながめておいでになって、 院が御位《みくらい》においでになったころ、 こうした夜分などには音楽の遊びをおさせになって 自分をお喜ばせになったことなどと 昔の思い出がお心…