第1話:貸金庫番号8番、9番 東京・丸の内。東京帝都銀行本店。その1階に構える本店営業部は、同行の“顔”だ。 午後2時55分。シャッターが閉まるまで、あと5分。 矢萩晃司は、八重洲の公証役場から戻ると、クローゼットにジャケットを掛け、ノートパソコンを開く。承認依頼の通知で真っ赤になった画面が現れ、思わずため息をついた時、背後でドアがノックされた。 「部長、失礼します!」慌てた様子で入ってきたのは副部長の倉田だった。「ロビーに東京地検の方がいらして、部長をお呼びだと」 矢萩は一瞬、意味を飲み込めずに眉をひそめた。 「…何の用件だ?」「それが、詳しくは部長に直接話すと…」「何人来てる」「二人です」…