警視庁の記録によれば、昭和二年度、東京都内で捕まえられた野犬の数は三万四千六百十頭であるという。 全国ではない、東京一都。 警視庁の管轄内に限定してすら、かかる始末であったのだ。 蓋し瞠目に値する。なんたる夥しさだろう。野犬に噛まれて怪我をして、狂犬病にかかってくたばる世にも不幸な人々も、大勢居たに違いない。 捕獲された三万頭強のうち、四千頭は「実験動物」の名目で各医科大学、伝染病研究所、あるいは北里研究所等に渡された。本邦医学の発達の「尊い犠牲」となったのだ。 残る全部は三河島の化製場に送られて、殺処分の後、皮は三味線、ガマ口に。骨、肉、臓腑は肥料や薬に加工され、売買されたそうである。 その…