時は明治二十六年、芝区愛宕町の一角に伝染病研究所が建設されつつあった際。同区の地元住民が巻き起こしたる猛烈な反対運動は、わが国に於けるNIMBY(ニンビー)の嚆矢と言い得るか。 (芝公園増上寺) NIMBY。 Not In My Backyardの頭文字から成立する概念だ。 「家(ウチ)の裏庭に置かないで」の直訳通り、意味するところは「社会のため、公共のために必要な事業と知ってはいるが、それでも自分の居住地域でやって欲しくはない」という心理から来る、住民の姿勢一般である。 つまりは横着の発露であろう。 この事態を受け、福澤諭吉の――伝染病研究所、ひいてはそこの所長たる北里柴三郎医学博士の、極め…