2013年6月号掲載 毎日新聞郡山通信部長/藤原章生(当時) アフリカにいたころ、こんなことを思った。 貧しい人たちを見るとき、例えば、ナイジェリアの貧民街を高台から遠望すると、そこにうごめく人びとの暮らしがあまりにひどく思え、近づくのが恐くなる。 意を決して降り立ち、群衆の中を歩いて行く。肉切り包丁を振りかざし、脅してみせたりする人も中にはいるが、大方は彼ら同士で冗談を交わしながら、なんとも言えないいい笑顔で迎えてくれる。 当然と言えば、当然。彼らにとって、よそ者の到来は一種の「ハレ」であり、何となく過ぎていく日常に差し込む珍事だからだ。異形の者の到来にかすかに興奮し、うれしくなり、笑顔を見…