だんなが会社でまだ「新米」なんて謂われていた頃の咄です。 その方は取引先の社長で、齢七十を数えようかとしていましたが、まさに古来稀なりを地で行く鯔背(本来は若い衆に用いる言葉ですが)振り。野暮なだんなからすると本當に恰好良かった。個性豊かな方で、引き継いだ先輩からは「機嫌を損ねると大変だから気をつけろよ」なぞ助言を戴きましたが、何故かだんなは一度も叱られたことはありませんでした。 会社に来られる時はいつも、船の様に大きくて赫赫と輝く白いキャデラックをご自分で運転されていらっしゃいます。約束の時間より早くお見えになることが多いので、30分前から駐車場で待機してお出迎えするのが常でした。キャデラッ…