9年前に初めて読んだときは、ひたすら希和子に感情移入して、その逃避行に一喜一憂していたが、このたび再読して、これは希和子と同じぐらい恵理菜の物語でもあったのだと気づく。自分を誘拐して連れ出して育て、その結果家庭をめちゃくちゃにした希和子のことを憎む恵理菜が、皮肉なことに、希和子と同じ轍を踏んで、妻子ある男の子を身ごもってしまったとき、彼女が何を考え、どう行動したか、ということが、後半の主なテーマとなる。希和子を妊娠させた秋山にしても、恵理菜を妊娠させた岸田しても、反応は判で押したように同じで、好きだけど、今は無理だから堕ろせという。このように自分勝手に卑怯に振る舞い、妊娠させた女性の苦悩への想…