役者というのは結婚すると人気が落ちる。 たった一人の生涯の伴侶を得ることは、何百、何千、何万倍の、異性のファンを失うのと引き換えである。 この俗説は、果たして真なりや否や――。 「そういうことは、事実、けっこう御座います」 神妙な面持ちで頷いたのは、六代目尾上菊五郎。 (Wikipediaより、六代目尾上菊五郎) 若干二十三歳の折、妻を迎えてまだ一年も経ていない、初々しい身であれど。効果というか周囲の変化は激甚で、嫌でもはっきり自覚せずにはいられない、猛烈性を帯びていた。 地殻変動にも喩うべき、ファン層の入れ替わりがあったのだ。 「独身時代の贔屓は婦人に多く、妻を有してより後の贔屓は男に多けれ…