「やっ、もしや?」 とつぜん、馬上の者が、 土にぽんと音をさせて降り立ったので、 それには主従も、何事かと、 怪訝《いぶか》りを持たないわけにゆかなかった。 「おう、間違いはない」と、 武士は又太郎の前へひざまずいた。 そしてもいちど、松明の下から、 しげしげと仰ぎ見て—— 「おそれながらあなた様は、 下野国《しもつけ》足利ノ庄の若殿、又太郎高氏様と見奉りますが」 「なに。わしを又太郎高氏と知ってか」 「知らいでどう仕りましょう。 多年、足利表のお厩《うまや》にも召使われておりましたれば」 「では、篠村に来ておるわが家の郎党よな」 「はっ。御一族の松永殿に従って、 足利ノ庄より この丹波篠村の…